それは二人が付き合いだして間もない頃

人と接することに慣れていなかった綱吉は毎日のように応接室に足を運んでいた

まるで通い妻のようにそれは健気で懸命だった

そんな、ある日のお話





=== 想い愛 ===





「おはようございます、恭弥さん」

「あぁ…おはよう、綱吉」


朝の風紀委員取締

低血圧のせいか恭弥はまだ眠たそうだ


「…ん、そこの女子」

「は、はいっ」

「スカート短すぎ、あとその髪…染めてるの」

「す、すみませんっ」


すかさず頭を下げる女子生徒

しかし不機嫌MAXの恭弥にはそんな謝罪は通用しない

恭弥の後ろに立って綱吉はそんな気がしてならない


「そんな恰好で校内に入らないでくれる 今すぐ帰ってその恰好直してから保護者と来校」


厳しい言葉を投付けて一刀両断

女子生徒は泣きそうです


「でも今日は大切な授業が…」

「そんな恰好をしてくるのが悪い、反省文五枚も追加明日までに僕に提出」


つまり明日までにその髪とスカートを直さなければならないということ

なんとも酷な話だが、普通ならばここでトンファーが鈍く光るはずなのだ

しかし今日はその片鱗すら見せない

そうこうしているうちに女子生徒は泣きながら帰路に着いた


「…恭弥さん、今日は容赦ないですね」

「ちょっと、寝不足」

「大丈夫ですか?」

「…うん、平気」


綱吉の方を向いて綱吉にだけ見えるように笑顔

それに思わず頬が紅く染まる


「綱吉」

「は、い?」

「早く行かないと遅刻にするよ?」

「うわぁっ!」


時計を見ればすでに遅刻ギリギリの時間

慌てて校門をくぐった綱吉の背を見送って今度は遅刻の取締に移った


  







「はぁー…」


最近、恭弥が素っ気無い

付き合いだしてまだ日は浅いけれど解る

今までは朝の取締や放課後、時々サボって屋上で逢う程度だった

しかし付き合うようになってから綱吉はお昼休みに自作の弁当を持って応接室に訪ねている

所謂愛妻弁当なそれに恭弥は表面に出さずとも喜んでいて米一粒残すことなく食べきる

何かが足りない気がする


「……なんか最近、抱き締めてもらってない?」


いや、そんなことは滅多にないだろうが付き合いだすと決めた日はそれこそ一日中べったりと寄り添っていた

それ以来抱き締めてもらった記憶がない


―――気がする


「………」


授業中の教室でぼーっと外を眺める

今は四時間目

そろそろ腹の虫が限界を達して鳴き出す時間

綱吉は時計を見て授業の終わりを待った



 








「恭弥さーん」


応接室近くの廊下で偶然見つけた恋人の背中

綱吉はとてとてと駆け足に近寄る


「あぁ綱吉…ちょっとごめんね、まだ仕事が…」

「大丈夫ですー待ってますー」


ニコニコと笑顔でそういうと申し訳なさそうに恭弥は微笑む


「ごめんね、今朝の女子が親を連れて来たらしいんだ」

「今朝の…」

「うん、もし遅くなったら先に食べてても良いよ」

「大丈夫です!五時間目は体育なのでサボります!」


風紀委員長に向かって堂々とサボると断言

そんなことができるのは綱吉くらいだろう

恭弥は苦笑すると綱吉の頭にポンッと手をおいてわしゃわしゃと撫でる


「うりゅ…」

「じゃぁ行って来るね」


そう言残すと恭弥は職員室の方へと向かって歩いて行ってしまった

綱吉はその背中が見えなくなるまでそこにいてすぐに応接室に入る

ソファーに腰掛けてすぐに食べられるように弁当を蓋をつけたまま並べた


「………今朝の人、なんでこんなに早く」


もしかしたら恭弥が目的かも知れない

今日の朝だって風紀委員がいると知っててあんな恰好をしてきたのだとしたら…

恭弥に少しでも可愛い姿を見て欲しかったのかも…


「―――…っ」


なんだか心配になって立ち上がる

応接室を飛び出して恭弥が向かった方へ急ぐ

職員室にたどり着く途中の廊下で話し声が聞こえて来た


「――ちょっとお話しいいですか?」

「!!」


聞こえたのは今朝の女子生徒の声と…


「なに…」


恭弥の、声


綱吉はその場で硬直して神経を研ぎ澄ました


「わ、私!ヒバリさんが好きです!!」


瞬間、恭弥が驚いたということが気配で解った

気が付くと綱吉は走り出していた


「――…綱吉?」

「え?」


一瞬垣間見えたのは紛れもなく綱吉で…

今のを聞かれてしまったと解った


「――…っ!」


その刹那恭弥は綱吉の後を追う

残された女子生徒は何が起きたのかまったく解っていないようだった





   







がむしゃらに走り回る

今、自分がどこにいるのかも解らない

ただ、恭弥が告白されていただけなのに

なにも、YESと返事を返した訳でもないのに

恋人が告白されている場面をみて頭が真っ白になった


「うわ…っ」


ドンっと鈍い衝撃

見るとそこには柄の悪い上級生


「あぁ?ってーなぁー肩外れちゃったかも」

「てめぇ良い度胸じゃねぇか、あぁ?!」

「ひぃ…っ」


不良の二人組

素直に怖いと思った

腰を抜かしてその場にへたりこむ

そこは学校の裏庭

不良が集まりそうな場所

風紀委員以外にこんな不良がいるのかと綱吉は驚いた


「あ、あの俺…」

「あ?慰謝料払ってくれんの?」

「いや、その…俺今金持ってないし…」

「あぁ?!なめてんのかてめぇ」

「ひぃ…っ」


怖くて動けない

不良に絡まれることは初めてではないがこんな校舎裏には助けてくれる人はいない

でももういっそのことここで殺られてしまえば恭弥に別れを告げられずな逝けるかも知れない

そんな考えまで浮かんできた



刹那


  


「何やってるの、そこ」



聞こえたのは



「僕の綱吉に、何やってるのって訊いてるんだけど」



愛しくて恋しくて逢いたかった



「――きょ…ゃ…さん?」

「ひ、ヒバリ…っ?」

「君達…服装規定違反、及びカツアゲの常習犯、あと…僕の綱吉に手を上げたことにつき…咬み殺す」


瞬間、恭弥はトンファーで二人にかかる

曲がりなりにも不良なので二人は応戦する

綱吉が茫然と見守る中二人の不良はグチャグチャになった

これは放っておいたら本当に死んでしまうのではないだろうか


「………ぁ」


刹那の情景があの時と被る


「恭弥さん…」

「…初めて逢った時もこんな感じ、だったね」


入学式の日

偶然出逢った二人

あの時は桜が咲き乱れていたけれど


「……綱吉、なにか誤解してるみたいだから言っておくけれど」

「なに、を…?」

「僕は綱吉だから付き合ってるんだよ…綱吉だから好きなんだよ」

「―――…」

「さっき馬鹿な女の話、聞いてたでしょ」

「………はい」


恭弥が綱吉の手を取って立ち上がらせる

と、腕の中に納めた


「僕があんなのに興味があると思った?」

「…だってあの娘、けっこう可愛かったですし」

「僕は綱吉にしか興味ないよ」

「でも…っ!」

「?」


急に声をあげて否定の言葉を紡いだ綱吉に恭弥は首を傾げる


「恭弥さん、格好良いし優しいし強いし頼りになるし頭も良いし…その気になればいくらでも女の人と付き合うことだってできるのに…」


綱吉が何が言いたいのか、なんとなく解ったけれど恭弥は何も言わずに続きを促した


「俺みたいな…何をやってもダメで仕様もない、しかも男と付き合うなんて…」


将来を考えると結婚もできなければ子供もできない

男同士で付き合っていたとなれば世間の目も冷たくなるに決まってる

なのに恭弥は綱吉が良いと言う



「なんで…俺なんですか?」



目尻に涙を溜めて綱吉はいう

どうして自分なのか

それが解らないのだと


「………ホント、馬鹿だね君は…」

「ぇ…」


何故か苦笑を漏らす恭弥に綱吉は首を傾げる

恭弥は綱吉の後頭部に手をやった


「綱吉だから…って言ったでしょ」

「ぁ…」

「綱吉だから、好きになったし…綱吉だから愛してる」


恥ずかしい科白をサラッと言ってのける恭弥に綱吉が顔を紅くした

恭弥は極上の笑みを浮かべる


「綱吉以外の人間なんて、いらない…綱吉がいてくれればそれでいいんだよ」


呟いて唇を重ねた

何が起こったのか良く理解できていない綱吉はだんだんと頬を朱に染めていく


「……っき、?!」

「クス…可愛いね、綱吉」

「―――…っ///」


頭から煙がたつくらい茹蛸のように紅くなる

綱吉は恭弥の胸板に顔を押し付けた


「ファーストキス…」

「あぁ、そういえば僕も」


さして気にしていない様子の恭弥に綱吉は半ば呆れる


「――恭弥さん…」

「なに?」

「大好きです」

「――…クス、知ってるよ」


からかうようなその口調は柔らかくて暖かで優しい

だから心地よくて、好きなんだ


「……ずっと、そばにいさせて下さいね」

「――当然」


君がそう、望むなら…




...fin


  


あとがき

わけわかんねぇ…っ←
即興だからわけわかんないです本当に申し訳ないです;;