一週間が終わる土曜日の夜にそれは起こった

雲雀恭弥は仕事を終えてゆっくりとお風呂に入っていた

時刻は23:00

今日も群れている草食動物を咬み殺してお疲れだ

しかしそのとき不意に玄関のチャイムが鳴り響いた

恭弥の住んでいるマンションはまずインターホンで玄関ホールの自動ドアをかけてもらわなくては

訪問者は入ることができない仕組みになっている

しかしそれを潜り抜けて玄関のところまで来たとなると鍵を持っている人間

恭弥は自分以外でそれをもっている人物を独りしか知らない

急いでバスタブから上がると大きめのタオルを腰に巻いて玄関に急ぐ


「綱吉…っ?」

「――…っ恭弥さん!」


思ったとおり扉の向こうにいたのは恋人である沢田綱吉

唯一マンションの鍵を渡してある人物だ

いきなり恭弥に飛びついてきた綱吉を受け止める

まだ濡れている身体に綱吉はぎゅっと強めに抱きついてきた

このままでは埒が明かないのでとりあえず扉を閉めて中へ入る


「どうしたの一体…」

「―――す、すみませ…入浴中でしたかっ?待ってますからちゃんと入って来てください!」


ようやく恭弥がどのようなかっこうをしているのかを知って綱吉はぱっと手を離した

苦笑を漏らすと恭弥は一言「気にしないで良いよ」と呟く

それに申し訳なく思うも綱吉は頬を染めながら呟く


「じゃ…ぁ、とりあえず…服着てください」


切実なそのお願いに恭弥は微苦笑


「じゃぁ少し、待っててくれる?」

「もちろんです!紅茶淹れておきますね!」

「クス…ありがと」


一つ微笑んで綱吉の髪をくしゃりと撫でる

着替えるためにリビングをあとにした


 







いったいこんな時間にどうしたのだろうと気になるが…

このままではいられないので早々に服を着ると綱吉の元に戻る

紅茶を淹れている後ろ姿が目に入っていつもとなんら変わらないその姿が逆におかしく見えた


「あ、すみません…こんな時間に」

「どうかしたの」

「それがその……話せば長くなることながら…」

「気にしないで良いよ、夜は長いからね」


何やらその科白にどことなくエロいことを想像してしまう綱吉である

夜に恋人の家へ上がり込むということがどういうことなのか理解するのが少し遅かったかも知れない

そう思うと自分は何をしているのかと自己嫌悪に陥るが今はそれどころではない


「あの…俺どうしても恭弥さんに謝らなければいけないことがあって…っ!」


今にも泣き出しそうな勢いの綱吉に恭弥は目を見開く

謝らなければいけないこと

綱吉のことだからちょっとしたことで落ち込む癖がある

それを考えると謝らなければいけないことというのはたくさんある

だがどれなのかは綱吉しか知らない事実

言い淀んでいる綱吉に一つ息を吐くと恭弥は一言


「大丈夫だよ…怒ったりしないから、ね?」

「ほ…ホントですか?」

「うん」

「ホントに怒りません?」

「僕が綱吉に嘘吐いた事なんてあるかい?」

「ぅ、あ……なぃ、です」

「だから、ね?」


優しい声でそんな事をいわれて綱吉は余計に申し訳ない気持ちでいっぱいだった

それでもせっかくここまで来たのだから…と意を決して口を開いた


 








「あ、あの…恭弥さんに最初にもらった指輪がどこかになくしちゃったみたいで…っ」


その言葉に恭弥はきょとんとした表情になる

綱吉は涙目をぎゅっと瞑って頭を下げていた


「ごめんなさ…っ」

「クス…」

「へ…?」

「クスクス…なんでそこまで謝るの…クスクス…」


突然口許に手を添えて笑いを堪えるように言われた言葉に綱吉は驚く

こんなに純粋な恭弥の笑顔は初めてだ


「な、なんで笑うんですか!」

「クスクス…綱吉、とりあえずちょ…クス……待って」


綱吉に背を向けて右手を口許にし左手に右肘をのせる姿勢で笑いを堪えている

綱吉は困惑して頭上にクエスチョンマークを浮かべている

やっと笑い終えたのか恭弥が綱吉に向き直る

目尻にはうっすらと涙が光る


「ごめんね、あまりに綱吉が可愛いこというからつい…」

「お、俺は真剣に…っ」

「うん…だからごめん…そんなに僕があげたものを大切にしてくれてたんだね」

「当たり前じゃないですか!恭弥さんにもらったものはすべて宝物です!」

「―――…君それ殺し文句」

「?」


急に綱吉の両肩に手を添えて俯く恭弥

おそらく今頬は真っ赤に染まっているのだろうことが予想されるが綱吉には解らない


「恭弥、さん?」

「なんか、綱吉って僕のこと大好きだよね」

「なっ何いってるんですか!当たり前じゃないですか!」


――当たり前…

それを聞いて恭弥はますます俯いてその場にしゃがみ込んでしまった

それに綱吉は慌てる


「恭弥さんっ?大丈夫ですか?」

「…大丈夫じゃないかも」

「えぇ?!お、俺にできることは…っ」

「じゃぁ、とりあえず…」

「へ…」


不意に腰に腕を回され抱き締められた


「少しこうさせて」


そう言って綱吉の胸板に顔を埋める恭弥の頭に腕を回してその中に納める

いつもとは逆の立場に綱吉はしどろもどろだが、いつも恭弥がしてくれていることをする


「恭弥さん…」


ゆっくりとその髪を梳く

恭弥の髪はまだ少し濡れていて艶があった


「今度新しいの買ってあげるよ」

「……、」

「今度一緒にペアリングでも買いに行こうか?」


ペアリングの響きに綱吉は少し嬉しくなる

でもいつも買ってもらってばかりというのもはばかれる


「今度は俺が恭弥さんにプレゼントしたい、です…」

「へぇ…?」

「そんなに高い物は買えないですけど…恭弥さんにもらってばかりだとなんか俺狡いみたいで…」


その科白が微笑ましくて恭弥はまたクスクスと笑う


「クス…綱吉らしいね」

「そ、そうですか?」

「うん…それにどんなに安くたって綱吉が買ってくれるものなら喜んで受け取るよ」


本当はものなんて必要ないけれど…


「じゃぁ明日!明日デートしましょうっ恭弥さん!」

「明日…ね、うん」


君さえいてくれればそれでいいのだけれど…

君がそう望むなら――…


「えへへぇ〜楽しみです」


その笑顔の為ならば


「じゃぁ今日はこのまま泊まって行くでしょ?」

「良いんですか…?」

「もちろん」


にっこりと微笑んで応える

綱吉も笑顔になる


「じゃぁもう一回お風呂入り直そうか」

「すみません…」

「構わないよ、綱吉も一緒に入るんだから」

「えっ」

「嫌なの?」

「そんなことないです!」


必死になって応える綱吉が可愛くて思わずその唇に触れるだけの口付けをおとした

案の定の不意打ちに綱吉は鳩が豆鉄砲食ったような表情をしたのちに頬を染める


「じゃぁ行こうか」

「ぅあ…はぃ……///」


立ち上がった恭弥に頭をなでられる

その行為が実は大好きだということを綱吉は言わない

いつもやってもらうよりときどきやってもらうほうが大好きでいられるのではないかと考えるからだ


その後お風呂に入り直した二人は泡の溢れる綱吉の好きな泡風呂で明日の予定をたてたという



...fin 










 あとがき

元拍手でしたぁ
雲雀さんに裸のままで迎えして欲しくて書いた品…
どうしようもないです

このあとにおまけをば


 












「あ…」

「ツナーなんだよぉいきなりー」


しばらくたったある日

家でくつろいでいた綱吉は新しく買ったペアリングを指にはめていた

そして今、ランボの脇をもって持ち上げる


「…ランボ」

「どーしたー?」

「その、頭の中に入ってるの…俺のじゃない?」


先ほどきらりと光に照らされて垣間見えたのはシンプルな形のリング

その形に見覚えがあった


「ら、ランボさん知らないもんねー!勝手に頭の中に入ってたんだもんね!!」


頭の中からそれを取り出して綱吉に手渡す

するりと腕から逃げ出して走り去っていくランボを追いかけるでもなく、綱吉はその場にがくりと項垂れる

手の中にはなくしたと思っていた指輪

どうやら何かの弾みでランボの頭の中にダイブしていたようだ


「うぅ…恭弥さんになんて言おう」


せっかく忙しい時間を割いて付き合ってくれたのに…

今度、見つかったお詫びにケーキでも焼いて行こう

それかお弁当に恭弥の好きなものを入れていこうと綱吉が奮闘したのはまた後日…