廊下を歩く、学ラン姿の人

風紀委員長、雲雀恭弥

周りに生徒は一人としていない

群れることを嫌うから

群れているところを見られれば咬み殺されることは必須

いつも、一人だ






=== 渡さないよ ===






「おーいそっちいったぞぉ!」

「うぃー…あぅっ」

「10代目!ご無事ですか!!」


体育の時間、男子は野球

綱吉は当然のように球拾い

それをとり損ねるのもいつものこと


「あーあーやぱりダメツナだなぁ…」

「あんだとてめぇら!」

「ご、獄寺くん!俺ボールとってくるからっ」

「あ、10代目!」


足早にボールを追いかけていく

校舎裏まで転がってしまったようで綱吉はあたりをきょろきょろと見わたす


「えーと…ボールは……」


むぎゅ


「……むぎゅ?」


下を良く見て歩いていなかったので何かを踏んでしまったようだ

その感触に恐る恐る下を見る

黒い学ラン


「……っきょ、やさ…?!」


そう、そこに居たのは恋人であり風紀委員長の雲雀恭弥

どうやらこの暑さで日陰に逃げてきたようだ

応接室は冷暖房完備なのに…


「…綱吉?」

「すみません!学ラン踏んじゃったみたいで…っ」

「あぁ…これくらい平気だから、綱吉が気にすることじゃないよ」

「でも…」


渋る綱吉に苦笑を漏らす

こういうところで律儀で頑固だ


「じゃぁ明日のお弁当、デザートにゼリー作ってきて?」

「え…いい、ですけど…そんなので良いんですか?クリーニング代とか…」

「綱吉からお金を取る気なんてさらさらないよ、だから明日…ね?」

「…はい、わかりました」


にこりと微笑み返す

それに恭弥も微笑む

こういうひと時が幸せだって思う


「悪ぃーツナ!ボールあったか…って」

「あ、ごめん山本!」


ボールを打った張本人の山本武がやってきた

授業中であったことを思い出して綱吉は慌てる

一瞬、恭弥と武の目が合った

すぐに恭弥は視線をそらしたが、武から痛いほど視線がかかる


「ボール…ってこれのこと?」

「はい!ありがとうございます恭弥さん」


恭弥の隣にころがっていた野球ボール

それを綱吉に差し出すと同時にその腕を引っ張る


「え―――」


一瞬のことで理解できなかったのか、綱吉は恭弥に腕を引かれると触れるだけのキスをされた

まるで武に見せ付けるかのように


「ちょ…恭弥さんっ?」

「頑張ってね、綱吉」

「〜〜〜〜もぉ…///」


ただでさえ暑いのに恭弥のその行為に余計に暑くなるのを感じた

綱吉はボールを受け取ると武を振り返る


「ごめんね山本、戻ろ」

「……」

「山本…?」

「っ、あぁ、そうだな」


恭弥を睨みつけるように眉間に皺を寄せていた武に綱吉が首を傾げる

先に綱吉が校庭の方に向かって走っていく


「……」


踵を返して校庭に戻ろうとした武の背中に恭弥が一言


「―――渡さないよ」

「っ!!」

「君に綱吉は…渡さない」


すでに立ち上がって校舎の方へ歩いていっている恭弥

それに悔しそうに武は一言


「―――っくしょ…」


その呟きは誰にも聞かれることなく虚空へと消えていった




...fin




≫あとがき
元拍手でしたー…
今考えると、僕の書く短編って本当に短編ですよね;;

ここまで読んでいただきありがとうございます!