それはまだ、出逢ったばかりのお話し





=== 二人の関係 ===





「あちゃぁ…」


それはまだ梅雨入りにはまだ少し早くて、でも梅雨に入ってもおかしくない時期の話

最近夕立などで雨の日が続いて今日は久し振りに快晴だった

なんの疑いも無く家を出て一日を過ごす

しかし今日は居残りをさせられてしまった

気付けば下校時間

担任に帰ってもいいと言われて昇降口まで来て見れば曇天の空から降りしきる強い雨

今朝の快晴で雨なんか降らないと高をくくっていた沢田綱吉はそれをみてその場にしゃがみこむ


「あーぁ…なんでこういう日に限ってこういう天気なんだよぉ」


ダメダメのダメツナと呼ばれている

それに自覚はあるし、いい訳しようもないから綱吉はいつも一人だ

故に待ってて居てくれる友人も居ない

ましてやこの時間、すでに生徒はみな帰路についているだろう

学校内に生徒の声は一つも無い


「…走って帰るしかない、かぁ…」


ガクリと項垂れて立ち上がる

鞄を頭の上にのせ少しでも濡れるのを避けようとして走り出そうと足を踏み出す

しかし、何かに肩を掴まれてそれはかなわなかった

前に少しつんのめって引かれた反動で後ろに倒れこみそうになる

しかし何かが背中に触れて倒れることは無かった


「え…」

「何してるの、沢田」

「ヒバリさん…?」




  





そこに居たのは風紀と書かれた腕章のついた学ランを肩にはおっている風紀委員長・雲雀恭弥の姿

今現在綱吉は恭弥の胸に背中を預けている形だ


「傘は?」

「忘れました…今朝は快晴だったので…;;」


あはは、と乾いた笑みを浮かべる

並中生なら誰もが恐れる恭弥とこんなに親しく話すのは綱吉くらいだろう

初めて逢ってからまだ1ヶ月と少し…

それでも二人はそれなりに会話を交わしている

入学式のあの日、桜の木の下で出逢ってから…


「なに、居残りかい?」

「はい…」

「サボりすぎだよ」

「ヒバリさんに言われたくないですよぉ」


普段の生活の中で絶対に見せない笑顔

人生何やってもだめで、笑うことも無かった綱吉は恭弥と一緒に居るといつも笑っている

恭弥もいつも孤高な存在として笑うことも無い

そんな二人が出逢ったのは必然か…


「それじゃぁ帰るよ」

「はい、さようなら」

「何言ってるの、沢田も帰るんだよ」

「へ…ッ?」


予想もしていなかったのか綱吉が素っ頓狂な声を上げた

それに半ば呆れながら恭弥が一言


「傘、もって来てないんでしょ?」

「……いれてくれるんですか?」

「何を今更」


然も当然だと言う様な恭弥に綱吉は嬉しくなる

恭弥に駆け寄ると傘の下に収まる


「えへへ…」

「なに」

「なんか、こういうの初めてだから嬉しいんです」

「……あぁ、そういえば僕もだよ」


今までこんなに親しくなったものなどお互い一人もいないのだから

人と一緒に居ると傷つくものと思っていた綱吉と

人と一緒に居ることでそいつは弱いものだと思っている恭弥

でも、誰かと一緒に居るというのはこんなにも暖かいものだったのだ



  





「そういえば沢田の家ってどっち」

「こっちですけど…ヒバリさんの家ってどこですか?反対方向とかじゃないですか?」

「大丈夫だよ、僕もこっちだから」

「それなら…いいですけど」


本当は逆方向なのだが、と恭弥は胸のうちで呟いた

今度、こっちの方向に引っ越しておこうとまで考えていることは恭弥しかしらない


「ヒバリさんって一人暮らしですか?」

「そうだよ」

「中学生で一人暮らしって大変じゃ…」

「慣れればそうでもないし、お金にも困ってないからね」


だからこそ、こっちに引っ越してこようと考えられるのだ

そんなことを考えていると綱吉が一言


「じゃぁ今日、うちで夕飯食べていきませんか?」

「…え?」

「俺母さんと二人暮しなんです、父さんは蒸発したらしいし…」

「蒸発…家と似たようなものだね」

「そうなんですか?」

「うちの親は何考えてるかわからないからね、お金は銀行に入れてあるけどほとんど疎遠だよ」

「それは…すごいですね」


お互いものすごいことを言っているとは思っていない

それが普通のことだと認識してしまったいるからだ


「でも、いいのかい?」

「はい、母さんも喜ぶと思いますし」


いつも一人でいる綱吉を母・奈々がどれだけ心配しているか知っている

だから自分にはこんなに素晴らしい人と親しいんだということを知ってもらって安心させたかったのだ

綱吉も綱吉でちゃんと考えている


「……まぁ、まずは沢田のお母さんに逢ってからだね」

「そうですけど……ヒバリさん、俺のこと綱吉で良いですよ?」

「そう?」

「はい、それに母さんに逢ったら母さんも沢田ですし」

「あぁそれは確かに…じゃぁ沢田も僕のこと名前で呼んでくれるの?」

「えぇ?!」


いきなりの科白に綱吉は驚く

確かに、名前で呼んで良いと言ったがこの人を名前で呼ぶのは抵抗がある

なにせ先輩であるし、並盛の秩序である人

自分とは天と地の差もあるほどの人だ

今更だがそんな人が自分と親しいなんてすごいことだと思う綱吉である


「ひ、ヒバリさんは先輩ですし…っ!」

「関係ないよそんなもの」

「でも…っ」

「じゃぁ沢田が僕のこと名前で呼ぶまで僕も沢田を名前で呼ばない」

「えぇ?!」


交換条件というやつだ、と綱吉は思った

でもだからといって恭弥を名前で呼ぶのは抵抗がある


「……〜〜〜」


一人で百面草しながら奮闘している綱吉を横目で見て恭弥は苦笑する

こんな気持ちになるのは、本当に初めてだ




  






「ここかい?」

「え、あ…はい」


いつの間にか家の前まで来ていて綱吉は少し驚いた表情をしている

雨脚がより一層強くなって来ていて傘にあたるリズムが早くなっていた


「どうぞ」

「お邪魔するよ」

「ただいま〜」

「あらあらお帰りなさい、ツッくん…と」


パタパタとリビングの方から早足にかけてきた奈々が恭弥をみて驚いた表情をしている


「初めまして、並盛中で風紀委員長をしてる雲雀恭弥といいます」

「あら、風紀委員長さんがわざわざ…家の綱吉がなにか」

「違うって!!」


日頃のダメダメっぷりについに学校側から人材を派遣されたと勘違いしたらしい奈々に想いっきり突っ込む

恭弥も苦笑を漏らす


「言いにくいけど…学校で唯一親しくしてもらってる人だよ、母さん」

「まぁ!ツッくんのお友だち?」

「「友達……?」」


お互い顔を見合わせる二人

友達、といえば友達なのだろう

でも友達ではないような気がする


「どうしたの?二人とも」

「いや、うん…なんでもないよ」


奈々の問いかけに綱吉が答える

それでも二人は何か言いようのない想いに駆られていた


「あ、恭弥くんお夕飯食べて行って?良かったら泊まって行ってもいいのよ?明日はお休みだし」

「いや、そんなご迷惑…」


急に泊まっていけといわれて恭弥は驚く

始めてきた家に泊まるなんて迷惑以外の何者でもないのではないかと考える


「いいのよぉ〜ツッくんが誰かを家に連れてくるなんて初めてなんだから」

「……」

「ね?」

「……じゃぁ、お言葉に甘えて」


半ば奈々に押される形で泊まることになった

綱吉と顔を見合わせて二人して微笑んだ


「母さん変わり者ですから…」

「うん、でも…優しいね」


人の優しさに触れるのはこれが初めてかもしれない



でも…前に一度だけ…


「ほぉら、いつまでもそんなところに居ないで」


気付けばまだ玄関にクツを履いたままだった

もう一度顔を見合わせると少し噴出して苦笑した


「それじゃぁお邪魔します」


人に触れることがこんなにも暖かいことだったなんて

今まで…知らなかった

その日三人で食べた夕食は今までで一番美味しいと感じた

今日もまた一日が終わっていく