朝起きたら、何も見えなくなっていた







=== 心からの安らぎを ===







「一時的ではあるが、目が見えなくなっているね」

「……」

「多分過労から来る精神的なものでしょう、しっかり療養すれば数日のうちにまた見えるようになるよ」


医師はそういうと病室を後にした

簡素な個室のベッドの上に一人、両目を包帯で巻かれた黒いパジャマ姿の少年

この少年は雲雀恭弥

今は中学校の春休み中

ストレスが溜まっているのか、仕事のし過ぎか、精神的なもので一時的に目が見えなくなってしまった

何も見えない…暗闇

それがこれほど不安に感じるなんてと、恭弥は自嘲気味に笑う

目が見えないと、聴覚や嗅覚が異常に発達する

廊下を歩く看護士の足音や隣の病室の話し声

異常に発達した聴覚に半ば驚きながらも、これでは眠ることができないとため息をつく


その時…


聞きなじんだ足音

それは病室の扉の前で止まり、扉をノックする音がした


「……どうぞ」

「失礼します」


聞きなじんだ声に不安が取り除かれた

たとえ目が見えなくてもわかる、君の優しい雰囲気

暗闇を照らしてくれるような暖かい気配


「大丈夫ですか?恭弥さん」

「うん、わざわざ来てくれたの…ありがと綱吉」


沢田綱吉

恭弥の一つ下の恋人


「…目、見えないんですか?」

「うん、ストレスとか過労の所為だって」


それを聞いて綱吉は複雑な表情になる

気配でそれを感じ取ったのか恭弥が苦笑する


「心配しないで、すぐに見えるようになるよ」

「それならいいですけれど…見えないってどういう感じですか…?」


目が見えなくなるという体験など滅多にあるものではない

綱吉も例外なく両目とも健在だ


「そう、だね……暗闇の中に音や気配だけ感じていて…正直、怖いよ」

「―――…」


この人が怖いなんてこと今まできいた事なんてなかった

それほど、目が見えないということは大変で視覚というのがどれほど大切なものなのかわかった

綱吉は恭弥の手を握る


「綱吉…?」

「俺はここにいますから…安心してください」

「……綱吉」


綱吉にできる精一杯の思い

目を治すことはできない…医者ではないから

精神的なものだと言っていた

つまり、薬で治るものでもない

不安や恐れを取り除く必要がある


「俺にできることならなんでも言って下さい…って言っても俺ができることなんてないと思うけど…」


何もできない自分が悔しいと思う

傍にいることしかできない自分が…


「…そんなこと、ないよ」

「恭弥さん?」

「綱吉が傍にいてくれれば安心できる」


ベッドに横たわる恭弥がもう片方の手を伸ばす

虚空を彷徨っていたその手を綱吉はもう片方の手で触れる

すると真っ直ぐに綱吉の頬に触れた


「綱吉だけが傍にいてくれればそれでいいんだから」


どんなに心配してくれることが要るとしても…

君じゃなくちゃ意味がない

綱吉だから、安心できる


「だから、ここにいてくれる…?」

「―――はい、もちろんです」


その言葉に安心して恭弥は頬から手を離す

もう片方の手は繋いだまま


「だから、安心して眠ってください」


ここにいるから

ずっと、いるから


「…ぅ、ん……それじゃぁ、おやすみ」

「はい、良い夢を」


いつも恭弥がしてくれるように綱吉は恭弥の額に口付けた

優しい寝顔に綱吉は目を細めて微笑を浮かべる


この人の寝顔が見れるのは…自分だけなんだって思うから