桜舞い散るあのときに

僕と君は出逢ったんだ



=== 桜舞い散る頃に === 



「遅い……」


冬 部屋 炬燵

恭弥は炬燵に口元までもぐって身体を温めていた

時計の無機質な音が部屋に響いている

先ほど見たときから1分しか経っていない


「早く帰ってきてよね……」


マンションの一室

洋室二部屋 和室一部屋  

ここに住み始めてからすでに2年の歳月がたっていた 

イタリアなのに和室があるのは、やはり日本の文化を大切にする同居人の願い出だろう


「……」


うとうとし始めて…いつの間にか眠っていた



「ただいま戻りましたぁ…って……あれ?」


返事が無いのを訝しく思って、首を傾げる

手には今日の夕飯の食材の入った紙袋

急に蜜柑が食べたいと言い出した恭弥の為に買ってきた網に入った蜜柑を片手にぶら下げている


「……やっぱり…」


和室に足を向けて襖を開けると案の定、炬燵で寝息を立てる恭弥の姿

とりあえず起こさないように音を立てずに蜜柑を炬燵の上に置き、キッチンにむかう

床暖房なので暖かいが外は本当に寒い

雪が降ってもおかしくない天気だ

夕食の用意にはまだ早い時間

恭弥を起こして蜜柑でも頬張るかと再び和室に足を向けた


「…」


部屋に入ると規則正しい寝息が聞こえる

そっと恭弥の隣に膝をついて寝顔を眺める


「……ホント…綺麗な顔してるよなぁ…」


睫なんてこんなに長いし…

そんなことを考えながらしばらく呆けたように固まっていた


「……僕の顔になにかついてる?」
   
   
急に声がして、はっと目を見開く


「…起こしちゃいましたか」

「アレだけ見つめられて、起きないほうもおかしいと思うけどね」

「あはは…;;」


炬燵から上半身をだして起き上がった恭弥は炬燵の上にある蜜柑を見つけた


「あぁ…お帰り、綱吉」

「はい」

「遅かったね」

「今日の夕飯何にしようか考えてたら遅くなっちゃいました」

「ふぅん……」


一緒に暮らし始めて2年

夕食を作るのは交代でやっている

仕事があるときは外で食べることもある

いつどんな仕事があるのかわからない…

それがマフィアの仕事

時に命をも危険に曝すことになるこの仕事で、二人はいつも互いに心配している


「今日の夕飯は…?」

「久しぶりに和風ってことで」

「あぁ、いつも時間がないとパスタだもんね」

「だって簡単じゃないですか…」


今日は久しぶりに二人して休み

こういう日くらいゆっくり食事がしたい


「白米に納豆にお味噌汁にお漬物……日本からわざわざ取り寄せたんですよ?」

「ホント…変なところでこだわるよね、綱吉」

「恭弥さんだって好きなくせに…」


他愛のない話をしながら炬燵で蜜柑を食べる 

イタリアとは思えないこの一室の雰囲気

自然と心が安らぐ


「……次の休み、日本に帰ろうか」

「え…」

「寂しいんでしょ?」

「……はい」 

 
こういう気遣いがとても嬉しい

出逢ってすでに5年

まだまだ未熟な時期ボンゴレボス・沢田綱吉

少しでもイタリアになれておこうと頑張っている姿はとても一生懸命で見ていてほほえましい


「まだ日本も寒いだろうね」

「あ、でもそろそ桜の時期ですから暖かいんじゃないですか?」

「桜か、懐かしいね」

「恭弥さん、桜でいろいろありましたよね」

「そうだね…でも、桜は君と初めて逢ったときの思い出でしょ?」


初めて逢ったのは5年前の春

真新しい制服を着た綱吉と返り血に染めた学ランを着て桜の下に佇む恭弥

あの頃は平和で、こんな未来があるなんて思ってもいなかった


「今では良い思い出だね」

「また二人で見ましょうね、桜」

「……うん」 


―――君となら喜んで…


まだまだ寒いけれど

暖かくなったら一緒に行きましょう

二人が出逢った…あの場所に




...fin





こちらは一周年記念に書いた5年後ヒバツナです
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