走った

ただ、彼方に逢いたくて

逢いたくて逢いたくて、逢って謝りたくて…

それだけで走る

それだけの意思で、走る

身体は病み上がりで、こんなに走ることは困難なはずなのに

必死になって走った

目指すのは彼方との思い出の場所

そこに行けば逢えると思った

そこにいると、直感した

こういうときにボンゴレの血を引いてて良かったなんて思う


「――――…っ」


いた

あの時と同じ場所

彼方を初めてみた一番最初の場所

見つけた

俺の一番大切な人


「―――…ょ、し?」


恭弥が綱吉を見て驚いたような表情をしている

思わず手を伸ばそうとするが、済んでのところで踏みとどまる


「…どうしたんだい、意識を取り戻したのならまだ寝ていないとダメじゃないか…沢田」


その言葉に、綱吉は気付く

この人は、自分が記憶をなくしてから一度も自分を「綱吉」と名前を呼んでいない

目覚めたあのときだけだ、あの時が…名前を呼ばれた最後


「―――です」

「?」


二人の距離はおよそ20m

俯く綱吉の肩がかすかに震えている

恭弥は怪訝そうに首を傾げる

すると、途端に綱吉が顔を上げた


「綱吉です…っ名前で呼んでくださいって…言ったでしょう…!!」


目尻に涙を浮かべて叫ぶ

校舎裏の日当たりの一番いいところ

二人、佇む


「……つな、よ…し?」

「そう、です…っ恭弥さん!」


瞬間、恭弥は瞬間移動したのかと思うほどの速さで駆け寄り綱吉を抱きしめた

涙が、頬を伝う前に恭弥のワイシャツに吸いとられていった


「ごめ、なさ……恭弥さんっ俺…なんて言っていいのか…わか…な……っ」


泣き崩れる綱吉

怖くて怖くて…嫌われてしまうのではないかって…

あんなこと…恭弥を忘れるなんてこと…あってはいけないのに…

―――強く、それでいて壊れものを扱うように優しく…抱きしめられる

ここに、この腕の中にいる資格なんかないのに…


「馬鹿」

「――…っ」

「僕をこんなに心配させて、苦しませて…」

「恭弥さん…」


終わりだと思った

もう戻れないと

そう…思った


しかし…


何故か、恭弥の声が震えていた


「こんなに……心配、かけて…っ」


あぁ、泣いてるんだと綱吉は思った

一度も泣いたところを見たことがないのに…


「ごめ、なさ…」

「まったく…これからは、目が放せなくなるね」

「え…?」


こつんと、額と額を重ねる

間近に見える綺麗な顔に思わず頬を染めた


「君がどこにも行かないように…ずっとそばにいて守らなきゃ」


その言葉が何を意味するのか…瞬時に解った


「……いても良いんですか…?」


信じられなくて、気付くとたずねていた

恭弥はそれ言葉に息を吐いていう


「言っておくけどね、綱吉…僕には君しかいないんだよ」


瞬間、世界が色をとりもどした


「恭弥さんっ」


涙を流し、恭弥の背中に腕を回した

久し振りに感じる互い体温はとても暖かくて心地良くて…


「もう…僕の前からいなくなったりしないで」

「は…いっ」

「おかえり、綱吉」

「――…ただいま、恭弥さん」


許されないと思っていた

こんなことして、幻滅されたかと…

それでもこの人は許してくれた

いや…始めから許してくれていたのだ

この腕の中にいることを…


「それにね、綱吉」

「…?」

「例え、君が僕を忘れてしまっても…僕が君を忘れてたりしないから…僕が覚えているから」

「恭弥さん…」

「だから安心して、ずっとここにいて…僕の大切な君でいて」


―――忘れられてしまうのはとても苦しいけれど…


「大丈夫ですよ」


信じて、いるから…


「もう二度と忘れたりしませんから…恭弥さんのこと…忘れたりしないから」


君は必ずここに帰ってくると


「……それは」


その言葉は、本当に……


「頼りになるね」


これからも違えぬ魔法の言葉


さぁ手をつないで歩こう

これまでもそうだったように、これからもそうであるように……



fin.










あとがき

お付き合いいただきありがとうございました!!!!!!!!
こんなに長いヒバツナを書くのは初めてです;;
皆さんのおかげで無事完結できました、ありがとうございますっ
おまけをこのあとに…