「おいヒバリ…」

「……獄寺」


病院を出たところで待ち構えていたかのように隼人が現れた

いつも口にくわえている煙草もない


「…なに」

「なんで、10代目はお前のこと……お前はそれでいいのかよ」

「……」


無言の恭弥に痺れを切らしたのか隼人がつめよって来る


「なんで、あの人の前に出てこねぇんだよ…いつもなら、うざってぇくらい現れるのに…っ」


いつも三人でいるところに現れては、綱吉をさらっていく…

さらっていくとはいえ、綱吉が恭弥といることを望んでいるから隼人も武も何もいえない

でも、記憶をなくしてから二人が一緒にいるのを見ていない


「思い出してほしくねぇのかよ…っお前と一緒にいれば10代目だってなにかのきっかけで思い出せるだろ?!」


悔しそうに、自分に言い聞かせるよう叫ぶ

苦しそうに…かみ締めながら


「―――…忘れてしまったことは、もうどうにもならないよ」

「…っ」

「あとは…綱吉次第…僕にできることは、何もないんだ」

「ヒバリ…」

「一番、苦しんでるのは…綱吉自身なんじゃないの…?」


――きっと、僕よりも…


声にならない声で呟いた

隼人はその言葉に俯く


「僕らは待つことしかできないんだよ…綱吉が思い出してくれるのを…」

「……もし、このままだったら…」

「それはそれでいいさ、綱吉が忘れてしまっても僕は忘れたりしないから」


そういって空を仰ぐ恭弥

表情はわからないが、切ない表情をしているのだろうと隼人は思う










ここは、なに?

これは、なに?

この、暖かい思い出

自分の知らない、思い出


―――本当にそうだろうか


だれ…


―――本当に、君は知らない?


…知らない、こんなの


―――本当に?


……俺は、この人を…


―――ほら、出口はあっちだよ…あの人に謝らなくちゃ


そうだ、謝らなくちゃ

とても酷いことをしたから

彼方を傷つけてしまった

あんなに心配してくれたのに

あんなに傍にいたのに

なぜ、自分は忘れてしまったいたのだろう


―――さぁ、もうすぐ


この光の先だ


―――希望はまだ、あるから



俺の大切な、彼方…

許されるはずがない

こんなことをしてしまって

幻滅されてしまった


―――どうしたの?


…怖いんだ、嫌われてしまったんじゃないかって…

どうしようもなく、怖いんだ


―――それは、本人に聞かなくちゃ


そういって背中を押された

途端、俺の意識は全ての記憶とともに浮上した







「――………」

「おはよう、ツっくん」

「…母さん」


ついこの間までと同じ風景

白い天井に病院特有の薬の匂い


「――…」


記憶を辿る

思い出すのはここで目を覚ました時のこと

そのとき…自分は…


「――…っ」


突然起き上がった綱吉に奈々は首を傾げる


「ツっくん…?」

「ぁ…俺………っ」


大変なことをしてしまった

もう取り返しの付かないことを…


「――…恭弥、さんっ」


あの人を…傷つけて…


「ツっくん…」

「俺…恭弥さんに…なんで…っ」

「…思い出せたなのね」


コクリと頷く

涙が溢れた

どうして忘れてしまったのか

よりにもよって何故、あの人を…

大切で…大切で大切で…とても愛しいあの人を


「…ツっくん、まずやることがあるんじゃないかしら?」

「…やる、こと」

「お医者様には私から言っておくから、いってらっしゃい」


そう言って背中を押してくれた

綱吉は病室を飛び出した

残された奈々は呆れ気味に笑う


「いってらっしゃい、ツー君」