彼方が…そう、望むなら……



  俺はそれでも…いいかなぁって、思えるんです




  
 

  
  === 想いはいつも彼方のために === 綱吉said. ===








  「え?」


  突然の、ことだった


  「今から、ですか?」



  授業中にも関わらず、俺のケータイが鳴り響いたのはつい3分前

  このケータイは、ヒバリさんが俺に持たせたもの

  つまり、ヒバリさん以外の人から着信があることが無い

  しかも、マナーモードにすることを許さない

  着うたはもちろん、並盛中学校校歌

  どこから入手したのかは、謎

  ヒバリさんから渡されたときにはもう入っていたから…

  このケータイが、授業中になるのは初めてのことじゃない

  だから、校歌が流れた瞬間クラス中がぴたっと硬直した


  
  「…もしもし?」



  申し訳なく思いながらも、すぐに通話ボタンを押す

  そこからはもちろん、ヒバリさんの声



  『遅いよ』

  「今、授業中ですよ?」

  『それでも、すぐにとりなよね』


   
  ―――そんな理不尽な…


  
  そんなことを思っても、本人に言えるわけがねい
 
  
  
  「どうかしたんですか?」

  『後3分で応接室に来て』

  「え?…今から、ですか」


  
  この人はまた…  
  
  それでも、逢いたいと思ってくれるのは嬉しい



  「…」



  ちらりと、教壇に立っている先生を見る

  すぐに顎で廊下を指す  

  みんな、ヒバリさんが怖いんだ



  「じゃぁ、すぐに行きますから、待っててくださいね」

  『荷物も持ってきなよね』

  「…了解です」



  放課後まで、帰す気は毛頭無いようだ

  俺はすぐに荷物を鞄に放り込むと、それを抱えて教室をでた

  獄寺くんが不機嫌そうな顔をしてたけど…大丈夫かな…?

  暴走しないと良いけど…

  

  「失礼します…」

  

  考え事をしながら応接室の扉を開く

  ノックをしないのは、ヒバリさんにそんなものは必要ないと言われたからだ



  ―――ノックなんてしなくても良いよ

  ―――え、でも…

  ―――ここにノックなしで入れるのは、綱吉だけだからね…



  その時から、俺はノックをしなくなった

  これは俺だけの特権

  俺だけが許されている

  それだけで、とても嬉しいから…



  「ぅっぷ…?」



  多分、にやけていたであろう顔に、何かがぶつかった

  瞬間、扉が閉まり、抱きしめられる感触…



  「……ヒバリ、さん?」



  部屋の主、雲雀恭弥

  ぶつかったのは、その人の胸板

  視界が、暗い



  「…どうか、したんですか…?」

  「…別に」

  

  そういって、俺を抱きしめる力が強くなる

  強く、強く…それでいて心地よい


  
  「綱吉…シャンプー変えたの?」

  「え…?」



  俺の頭に頬を摺り寄せていたヒバリさんが一言



  「よく、分かりましたね」
 
  「いつもと香りが違うからね…」


  
  ――僕の好きな匂いだ 
 


  そう呟いて擦り寄ってくる

  まるで猫みたいだなと、思う


  
  「ヒバリさんて、動物に例えたら黒猫ですね」



  群れることを嫌い、自由気侭に生きる

  一人を好み、気に入ったものにしか心を許さない

  まるでどこかの猫みたいだ

  
  
  「…綱吉は、ウサギみたいだよね」

  「えぇ?」


  
  クスクスと笑ってみせる

  ウサギ、か…

  それも、悪くないかもしれない…



  「それで…今日は何か御用ですか?ヒバリさん」

  「あぁ…これをね―――」



  こうして、放課後まで一緒に過ごす

  この時間が、とても幸せ