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暗殺チームというだけでも組織内では肩身が狭いというのに、特に私個人がチーム外の奴等からどんな好奇な目で見られ、どんな下卑た言葉で語られているか、知ってはいるが感慨は薄かった。どうせ暗殺なんて生業にしている以上、ド底辺の畜生として扱われて然るべきなのである。これについては、女より男のほうが名誉や体面を重んじる傾向にあるから、私よりもリーダーであるリゾットなんかのほうが、余程思うところがあるようだった。私以外の誰もが、待遇の改善と、自分たちの働きに対する評価の見直しを、大なり小なり求めているらしい。表だって異を唱えたりはしないけれど、私はそんなこと考えたこともなかった。それよりも、今がずっと続けばいいと思っていた。頭を使わなくていい仕事。女というだけで私に優しい、異様で気のいい男たち。
「今がずっと続けばいいのに」
だから、私の口から漏れた言葉は常から考えている私の本心で、髪を撫でる指の心地好さから誘発された睦言ではない。他人が聞けばどう思うかは重々承知だが。
「お前は欲が無いんだな」
リゾットは手を止めることなく相槌を打った。憐れみさえ滲ませて。私は首を傾げた。無欲だと定義できるほど、現状維持は簡単なことだろうか。状況は刻一刻と悪くなっていくばかりなのに。
「そんなこと無いわ、リゾットとこうしているのは凄く上等で、贅沢なことよ」
だって、私たちは人殺しで、多分そう遠くない未来に同じように誰かに殺されるのを待つばかりなのだから。寄り添うことで、一瞬でも安らげるならそれは過分な幸福だ。リゾットは眉根を寄せて、難しい表情を浮かべた。彼は今夜もう一度、私を抱くかもしれない。


女の影は常に付き纏っているのに、その誰とも長続きすることがないという、色男の見本のような性質のプロシュートが私を求めてくることは少ないけれど、皆無という訳ではなく、それは時候の挨拶のように時折、お互いの親密さを確認する為に決行された。乞われれば誰とでも寝る売女だと私を謗る輩もいるけれど、そいつらは私の愛すべき仲間たちではないし、そんな風に私を蔑む奴とは間違っても肉体関係を持たないので、放っておいてくれればそれでいい。ベットの上でプロシュートは私をうんと可愛い子猫ちゃんにしてくれるし、それだけで構わないと思う。
「よく似合ってんじゃねーか。お前があんまりイイ女なんで、見違えたぜ」 
「ありがとう、プロシュートはいつも通り、とびきり素敵よ」
この後の任務の為に選んだ赤いカクテルドレスは、プロシュートの好みにそぐうだろうと朝からワクワクしていたのだが、どうやら見立て通りだったようだ。ご機嫌な様子で、私にキスの雨を降らせてくる。最初は軽いスキンシップのようだったが、徐々に雲行きが妖しくなってきた。背中を這う掌がいやらしい。
「ペッシが待ってるんじゃないの?」
「構うかよ、待たせときゃあいい」
色事師が甘く囁いた。


どうしても不定期な仕事だし、個別の任務も多いから、メローネに逢うのも久しぶりだった。好色そうな見掛けに反して、存外普通のセックスをするメローネの綺麗な金髪を指で弄びながら、二人で寝台代わりのソファーに凭れて事後の倦怠をやり過ごす。細い煙草を咥えていたメローネが、有害そうな煙を吐き出して笑う。
「昨日はプロシュートと一緒だったんだろ?」
「うん」
メローネは変態だけれど、それは性欲がむしろ好奇心によって成り立っているからで、本当はするより知る方が好きなのだ。彼は今、知りたがっている。今日自分が抱いた女が、昨日どんな風に別の男に抱かれてきたのか。
「生きてた?」
「元気そうだったよ」
「アッチのほうも?」
「お盛んでしたとも」
このあたりで私に口を割る意思があることを悟ったメローネが、嬉しそうに口笛を吹いた。ディモールトベネ、だって。でも私は喋っているより抱かれているほうが好きだから、終わったら改めてちゃんと可愛がって欲しい。


変なところで怒りっぽい癖に、寝台の上ではやたら寛大なギアッチョは、私が嬉しげにベルトに手をかけるのを見て一瞬我にかえったらしく、さっきまでの興奮は何処へやら、なんだか呆れた調子で言った。
「…お前何考えてんの?」
どうにでも解釈できる質問は狡い。批難の意味を込めてギアッチョの股間から顔を上げたら、彼は思いの外真面目な顔で私を眺めていた。
「私は、今がずっと続けばいいと思ってる」
誰かの命をお金にかえる仕事。夜の間だけ私を可愛がってくれる、愛すべき仲間たち。
「なんだよそれ…」
私の有り様は歪んでいるかもしれないが、こんな風にしかなれなかったのだから仕方無い。気持ちいいことが好き。強い男はもっと好き。それが美しい男なら、尚更好き。誰からも、理解なんかされなくていい。ただ、この瞬間が永遠に続けばいいと願っている。私は誰よりも欲深だ。
「そんなの無理だろ」
私の切実な祈りを、ギアッチョはあっさり切り捨てた。不可能なことは百も承知だったので、私は落胆することなく、ギアッチョへの愛撫を再開した。


命なら惜しむから


積み重なって過去に変わった今の終わりは、想像していたよりもずっと早く訪れた。体調不良を理由にしばらく休んでいたら、ずっと追い求めていたボスの正体に近付くチャンスが巡ってきたらしく、秘密裏に作戦が決行され、結果的に私だけが生き残ってしまったのだ。暗殺チームは全滅したことになったようだし、それならそれでいい。私は誰にも内緒で、ひっそりと足を洗う決心をした。
「それにしても、薄情なパードレよね…」
まだ膨らみ始めていない自らの腹部にそっと手を当て、話しかけてみる。厳密に検査すれば、産まれてくる子供の正式な父親が誰かを知ることはできるだろうが、調べる必要は感じなかった。この子は私達の子だ。父親が彼等の内の誰であれ、遂ぞ永遠になることの叶わなかった儚いあの時間が確かに存在したことを示す、唯一の証明になるだろう。

2018.04.28 風雅さまへ