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※病んだジョジョラーと弟の深司、色々と注意

仲良くなった男の子たちは、大体みんな私のことを猫みたいだと言う。寝台の上では愛おしそうに、時々は憎たらしそうに。そんな調子だから私に悪い噂は多いけれど、援交をしていたっていうのと、子供を堕ろしたことがあるっていうのはガセ。面と向かってきかれたら流石に否定するけど、どのくらい信じて貰えているかはわからない。ボーイフレンドが沢山いるのは嘘じゃないから、同性の敵を作りやすいのだ。だって私はネコ科の女。気の向くままに甘えて擦り寄って、抱き締めてもらえればそれでいい。どうせなら私を目の敵にしている派手な女の子たちにおもいっきり羨んで僻んでもらおうと、性根の歪んだ私はかっこいい男の子を選んで関係するようになった。私の思うかっこいいは随分安直で、顔が良いとかテニスができるとか、せいぜいそれくらいが条件。欲を言えばディオ・ブランドーみたいな金髪で美形で悲惨な過去があって、野心家でプライドが高くてカリスマ性があって…みたいな男がタイプなのだが、リアルは勿論昨今ではマンガでもあんな傑物は見なくなった。残念な限りである。

今時片親なんて珍しくもなんともない。ママは私以上に猫みたいな女で、私が中学に入ってからはサラリーマンだという面白味のない男に夢中でなかなかうちに帰ってこない。私は寂しいのかもしれない。ふらふらと、夜の街を出歩いてしまう程度には。
「門限ない女の子ってさー、珍しいよね…俺他に知らないカモ」
「ふーん、あったほうがいいかな?」
「ないほうがいいんじゃない?自由で」
千石とは中学に入る前から仲が良かったから、もう随分気心が知れている。密室だし学割がきくから、デートは専らカラオケ。歌っている千石はいつもより大人っぽく見えるから好きだけど、彼は別のことをしたがるので三曲歌ってくれたら多いほうだ。にこにこ顔でクラスのかわいい女の子の話をする千石が、私のカレシではないことだけは確かだったが、セフレと呼ぶには少しだけ私は彼に好意的だった。千石が本当に好きな人は私でもその女の子でもなくて、そのことで彼はずっと苦しんでいた。恋は大人の特権のようにママは言うけれど、子供のほうがよっぽど純粋に人を好きになれることを私たちは本能的に知っている。
「でも今日は帰ろうかな、明日から学校だし」
「そうだね…あーあ、もう二年生かぁ」
あっという間だったなぁ…なんて伸びをしてTシャツを探し始める千石の横で、私は全然違うことを考えてる。一年生だった最後の日に配られたプリントに書いてあった見知った名前について。
「なんか歌ってあげようか?」
「やった、歌って歌って」
「なにがいい?」
「VOODOO KINGDOM」
「また難しい曲をチョイスするねぇ」
苦笑しながらも私のリクエストにこたえてくれる千石の友達思いな横顔を私はやっぱり好きだと思う。

入学式は例年通り退屈だった。強いて言うなら少しだけ開いた窓から覘く桜が綺麗だった。今日は名札を忘れてくるべきだったかもしれない。そうすれば、サラサラの黒髪をした可愛らしい新入生に睨まれるはめにはならなかっただろう。廊下ですれ違っただけなのに彼はわざわざ足を止めたから、こちらも立ち止まらざるをえなくなる。早く帰りたいのになぁ。
「…伊武、ってことは君が"しんじくん"なんだ」
「嫌だなぁ…ほとんど初対面なのに下の名前をくん付で呼ぶとかなれなれしいにも程があるだろ、大体なんで同じ校区にすんでるワケ?…わかったゾ、今更姉貴面するつもりだな、そんで養育費とかぶんどるんだ…」
「アンタに姉貴面したって今更とれないと思うけどね…」
可愛い顔に似合わず暗い声でボソボソと喋り出した彼に一応つっこみを入れた。なにを隠そう、私と彼…伊武深司とは腹違いの姉弟にあたる。幼い頃半年足らずではあるが、父に引き取られていた時期もあるので彼は私の存在を知っているが、彼の妹たちは私のことを知らないだろう。そのこともあってか、彼は今随分と敵意を込めた眼で私を見ているが、そんなキレイな顔で睨まれてもこちらとしてはただのご褒美である。試しににっこりしてみたが、彼は無表情のままだった。似てないな、と思う。自分とも、記憶の中の父親とも。深司は母親似なのだろう。一緒に暮らしていた時期もあるはずなのに彼女の顔はまったく思い出せないのだけれど。
「俺はアンタを姉だと思ったことないから」
だから金輪際関わってこないで、とか言いかねない彼の言葉を待つ気はなかった。
「まだテニスやってるの?」
「…関係ないだろ」
ふふふ、驚いた驚いた。つり目が丸くなる瞬間に優越を感じる私はどうにもこうにも性格が悪いらしい。怪訝そうにこちらを窺う、この子のほうが私よりよっぽど猫みたいだ。

仁王の銀髪が人工的に作られたものだということは重々承知だが、髪を降ろした状態で首にかかる後れ毛はちょっとだけセカンドカラーのDIO様みたいで素敵だと思う。浴室にはカラーリング剤の臭いが満ちている。間違ってもママが日中にうちにいることはないので、私は友達を連れ込んで好き放題できるのだ。仁王は慣れた様子で、手際よく髪を染め終えた。
「漫画みたいな話じゃのう」
ベトベトになった使い捨てのコームをビニール袋に突っ込みながら、仁王は私の身の上話に遅い相槌を打つ。私は鼻で息をしないように気を付けていた。

公立であるうちの学校のテニス部はそんなに強くない。評判は、はっきり言って最悪だった。私は彼等とは親しくしていないので、誰が所属しているのかもよく知らない。校内には私の興味を引くような人物はいないので、一人気儘に、それこそ猫の如く涼しい場所を求めて彷徨っていた。校舎裏からフェンスの鳴る音がしたので、何事かと様子を窺いにいく。
「お前生意気なんだよ!」
今時漫画でも見ないような、古典的なリンチに出くわしてしまった。三対一で下級生を囲んでいるのは、同じクラスの男子たちである。まったく嘆かわしい。
「何してるの?」
それと同時に思い出す。この学校には一人だけ、私の興味を惹く子がいたこと。
「凄い音してたよ?先生来るよ?」
あくまで淡々と尋ねてやる。相手を刺激するのも、挑発するのも良くない。部外者の、それもクラスで浮いている変人の登場に、男子テニス部のレギュラー諸君は躊躇いながらも退散していった。
「…誰も助けてくれなんて頼んでない」
深司はこちらを睨んできた。八つ当たりだとわかるから、私は肩を竦めるだけで彼に応える。後輩だからとか、弟だからとかじゃなくて、君がキレイな顔をしてるから、それ以上殴られたら勿体無いと思って助けてあげたんだよ、と。教えてやったらどんな顔をするだろうか。

蛍なんて見られなくなって久しいのに、地域行事の一環として蛍祭りという名前だけ残っている。小規模ながら出店が連ねたり、花火が上がったりする、毎年の恒例行事だ。誘われたので、ホイホイついて行った。どうしてもタコヤキが食べたいという強引な理屈で私を誘った福士はちょっと変わった男の子で、三年生が引退してしまうので、来月から部長になるらしい。選んで付き合っているので、私の周りはテニスの出来る男の子ばかりだ。
「そこで堂本の奴、ミチルちゃんにさー」
よく喋る福士の話に適当に相槌を打つ。くるくる表情が変わる彼を見ているのは楽しいが、知らない人物の話には興味が持てない。何気なく人込みに目をやったところで、真っ直ぐこちらに注がれている視線に気が付いた。目が合う。そういう時の癖で、無意識に笑いかけた。舌打ちが聞こえた気がした。
「ちょっとォ、聞いてる?」
ごめんね、聞いてなかった。不服そうな福士に返事をする前に、深司は人波をかくようにして此方に迫っていた。なんだか彼には睨まれてばかりいる気がする。
「ごめん、なんか…」
「え?」
「弟来たから、ちょっと行ってくるね」
「どーしてそーなるのッ!?」
福士の返しはほぼ悲鳴のようだったけど、気にせず置いてきた。ぐんと手を伸ばして、少年の細い身体に巻きつける。深司の背は私とそんなに変わらないように思っていたけれど、私を抱きとめるために膝を曲げたのを見て、どうやら私よりは高いようだと目測した。縺れ合いながら、雑踏を抜ける。私たちが姉弟だなんて、一体誰が思うだろう。

喧騒から離れてしまえば、辺りは途端に寂しくなったけれど、都合が良いくらいだったので、そのまま河川敷に腰を降ろした。深司は難しい顔をしていた。私に伝えるべき言葉を探しているようだった。
「…アンタは俺を好きなんだと思ってた」
私の方を見ることなく、責めるような口調で、吐き出された本音は、いよいよ不穏である。
「ずっと俺のこと見てたじゃないか」
テニスコートのある公園は実はそんなに多くない。子供が自由に使えるところなんて、尚更だ。そこが寂しい私の狩場。同じ年頃の男の子が練習しているのを眺めて、楽しんで、向こうから声をかけてきたら、相手をする。深司は元々私のお気に入りのプレイヤーだった。時々しか見かけない、サラサラの髪とキレイな顔立ちの男の子。自分の弟だなんて、夢にも思わなかった。
「それなのに姉とか、なんの冗談だよ…。俺は認めないからな」
「認めなくていいよ」
深司の手を後ろから握る。彼はそっぽを向いてしまったが、気にしない。私がネコ科なら、半分同じ血が流れる彼もまたネコ科であろう。目を逸らしあうのが暗黙のルール。
「俺はアンタが…」
深司が躊躇いがちに言いかけたのと、私が口を開いたのはほぼ同時だった。この恋によってもしも崖から身を投げることになったとしても。それで構わないと思える、薄っぺらな覚悟なら互いにとうに出来ていたということ。
「…言わなくてもいいから、キスしてよ」
或いは、これはただの興味なのかもしれない。禁忌を犯すという実験。いつだって、猫を殺すのは好奇心なのだから。

Story of the poor cat
2017.05.22 カズタロウさま …すんまそん