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愛情に飢えた人間がどう足掻いても可哀想なのは、大抵の場合、彼等は愛されたことがないので、自らが欲しているものがどんなものなのか、皆目検討も付いていないことに起因する。もしかしたら、もう手に入っているかもしれないのに。足元に転がっている空き缶がそれかもしれないのに。
「博愛主義っていうのか?あれは全然よくない、誰も好きじゃないってことだ、そうだろう?」
そんな風に嘯くメローネの両親なら知っている。愛情に溢れた善良な人たち。彼等は信仰を携えて愛すべき隣人のドアを叩いて回ることを生業としていた。貧富の差なく平等に。勿論うちに来たこともある。私とメローネは同郷なのだ。あの夫妻の息子がギャングになるなんて悪い冗談のようだ。
「誰も好きじゃないなら、いいじゃない…きっと苦しくないわ」
これは私の勝手な持論。だから私の人生は最近やっと苦しくなってきたのだ。概ね向かいのソファーに腰かけてノートパソコンのキーボードをリズミカルにタイピングしている、この男のせいで。
「その苦しいのがイイんじゃないのか?…よくわからないけど」
私の視線を意識して、メローネが髪を掻き上げた。金糸のような髪が彼の指の隙間から零れるのを、目で追ってしまう自分にちょっとだけ嫌悪感。白状してしまうと、メローネに誘われた時、私は滅茶苦茶嬉しかった。例えそれが誰でもいい、一度きりの情交の相手だとしても。むしろ、相手がメローネであることを考えると、そのほうが都合がいいとすら考えていた。私が彼に対して抱く感情は、好意よりも余程好奇心に似ていた。どちらも好きが頭にあるのだからいいじゃないか。そう結論付けて今日までやって来たけれど、メローネの言動は易々と私の許容範囲を超えていた。
「俺は子作り以外でセックスしないよ」
チーム共用のセーフハウスの床に次々と服を落としていきながら、最終的に全裸になったメローネは真顔で言った。逆にふざけているみたいだったが、私は急に怖くなって、彼に服を着るように殆ど懇願のように説得し、とりとめのない話で誤魔化して、冒頭に至る。メローネに衣服の着用を促したのは、任務の遂行と現在地をリーダーに知らせたほうがいいのではないかという具体的な提案だった。言動は突飛だが、彼はこう見えてマメな性質なのだ。
「愛し合ってる二人にベイビィが授かる…目出度いじゃあないか、何をそんなに躊躇しているんだ?」
一段落ついたのだろう。パソコンを置いたメローネが、私が迷走させた話題を強引に戻しにかかる。
「躊躇いしかないでしょうよ、子供なんか産めません」
私の主張は至極真っ当だと思うのだが、メローネはひどく理不尽なことを言われたかのように大袈裟に嘆いて見せた。
「健康状態は良好なのに!」
この話の通じなさには覚えがある。あの親にしてこの子あり、だ。
「そういう問題じゃないでしょう!…こんな仕事じゃ育てられないし、何より子供が可哀想!」
「どんな環境であれ幸せかどうかは当人が決めることだぜ?俺たちの子供を信じてやれよ」
「生まれること前提で話さないで!」
まだ仕込んだ覚えもないのに孕んだ気持ちになってきたから不思議だ。私が金切り声をあげたことが面白かったのか、メローネがきゃっきゃっと笑った。子供みたいに無邪気に。
「…もしかして私からかわれてる?」
「どうかな?子供が欲しいのは本当さ」
メローネが、今度は打って変わって大人びた口調で言う。いつの間にか隣に移動してきて、私の肩を抱いているのだから始末に悪い。
「いいじゃないか、温かい家庭ってやつを、一度でいいから体感させてくれよ」
まるでアトラクションみたいな言い方だ。メローネの生まれ育った家なら知っている。そこに属する人々のことも、なんとなく。でもそれはお互い様だから、メローネも私の家族をふんわりと知っている。温かい家庭なんて幻想に過ぎないことは、お互い痛い程よくわかっている筈だ。
「二人であの町に戻って、挙式して、幸せになるの?…馬鹿みたいね」
「まさか!子供だけ拵えて、楽しく暮らすんだ、誰も俺たちを知らないどこか遠いところで」
歯の浮く様な科白も、服を脱ぎながらじゃ格好が付かない。メローネの顔のわりに厳つい裸体が露わになっていくのを眺めている。笑っちゃうような未来予想図。そこに愛はあるのだろうか。もしかしたら子供と一緒に生まれてくるのかも。私はまだそれを見たことが無いけれど。
「…きっと誰からも祝福されないでしょうねぇ」
溜息交じりに呟いた。凭れてくるメローネの仄かな体温。脈打つ皮膚の滑らかさ。服を着るか、くだらない妄想をやめるか、どちらか選んで欲しいと思う。セックスはしてみたいが子供は作りたくない私は、けれどこの男が子供が欲しくて堪らないことなら知っていた。ベイビィ・フェイス。性行為を省いて子供が出来ちゃうスタンド。親を殺す為だけに子供が産み堕とされる幽波紋。
「要らないな、そんな糞の役にも立たないもの」
メローネの囁きに被さるように、入り口の鍵が開かれる音がした。私は結局何も起こることなく、二人の蜜時が終わったことを理解する。
「…無事か?」
顔を出したのはリーダーこと、リゾットである。全裸で私に体重を預けるメローネを見ても、普段通りのクールな表情を崩さない。対するメローネも落ち着いたもので、平然とそのままでいる。
「五体満足という意味ならね。…リーダーこそ、どうしたの?」
そういえば携帯電話をマナーモードにしていたことを思い出して尋ねた。仕事のことで用事があって、わざわざ伝言しに来たのなら申し訳ないことこの上ない。リゾットはチラリと、未だに服を着ようとはしないメローネを見た。
「そこの変態から此処でお前と子作りをするとメールが入った」
なるほど、報告連絡相談は私が想定していた以上のレベルで徹底されていたらしい。
「お前たちの関係を考えて額面通りに受け取っても良かったんだが…」
神妙な面持ちのリゾットに対して、堪えきれなくなったらしいメローネが狂ったように笑い出した。確かに、メローネのスタンド能力を知っている者からすれば、その文言では立派な殺害予告である。


2017.03.03 毒りんごさまへ 子供がほしいメローネ