幸せ謳歌





「そういやさぁ」
「うん?」

雪名、彼女でも出来た?と友達に聞かれたのでうんまぁ恋人は出来たと答えると、マジでか詳しく話せと質問攻めに遭ってちょっと困った。
俺の恋人、童顔で三十路とは思えない程の可愛い人で、偶々入った本屋―俺のバイト先なんだけど―で俺に一目惚れしてくれたんだって。それからほぼ毎日来てくれて、話しかける訳でもなくただ見られててさ。最初は可愛い高校生に好かれちゃったのかなぁと思ってたんだけど。きっかけ?うーん、俺がその人の過去に関係あった男が半ストーカー化してたのを追っ払ったから?いや、その前にあれか…ん?いやいや別に?うん。それで、そのひと俺の大好きな少女漫画の作家担当してて。凄くない?これはもう運命だとしか思えなくて俺。

「…つまり?」
「九つ上の少女漫画編集者」
「なげぇよ!てか可愛いとかマジか!羨ましいなぁおい」
「うん、可愛いよー」

へらっと笑うなと友達に怒られた。うーん、でもどうして恋人が出来たと分かったんだろう?

「何でってそりゃお前…」
「うん?」
「お前、自覚なし?」
「自覚?」

あーこれだからイケメンは…と何故か言われる。何で?

「最近、お前付き合いちょっと悪くなったじゃん」
「え、そう?」
「なったんだよ!バイト忙しいんだろうとは思ってるけどさぁ。前はもっと休みは飲みに行ってたじゃん」
「そうだっけ?」
「うん。でさ、タマに料理本読んでるし。何でかなーって思ってたら最近引っ越したって言ってたから、彼女出来て同棲でもしてるんかなと」
「あぁうん。すれ違い防止で通い同棲してたんだけど今は同棲してる」
「やっぱり…最近やたらオーラが眩しいのはそのせいか」
「えー俺、そんなに分かりやすい?」

うーん、と首を捻る。確かに、木佐さんの為になるべく家に居るようにしているし、疲れた身体にはやっぱり温かくて栄養価が高くてそして何より美味しいものをと思って料理本を見たりはしてるけど。まさか、付き合い悪いと思われてるとは。

「最近お前のまわりの女子達が雪名君が最近皆の王子様じゃなくなってきた!って騒いでたのも納得」
「そんな事は…あぁまぁ、あるかも。あのひと不安がりだし、やっぱり好きなひとに一番優しくしたいし俺」
「おぉ…ベタ惚れ」
「うん。俺にとって全てを捧げる覚悟で付き合ってるひとだし」

恋人である木佐さんは、男だしリスクの高い選択だったのも分かっていたけど、それでも誰が何を言おうと好きなものは好きだし、これから先もそれは変わらない。それだけの覚悟を持って、彼と付き合ってる。
あんなに可愛いひと、他に居ない。今まで彼女だって居たしそれなりに経験も積んできたけど、こんなに本気で好きになるなんてなかった。相手が本気になる分だけ、俺だって返してたつもりだったのに、何時も何処か一歩引いた状態だったかもしれない。自分で言うのもなんだけど、モテている自覚はある。木佐さんにも言ったけど、書店に来る俺目当てのお客さんは分かる。それに高校時代とかは基本的に俺のまわりに居るのは女子が多かったし、ストーカー被害にあったのは一度や二度じゃない。それでもこの性格に顔が俺な訳だし、好きになってくれた事自体には感謝をすべきだと思ってる。ただ、物事には全て限度が存在して、行き過ぎても行かな過ぎても駄目なんだと知った。だから大学に入ってからは上手く適度な距離を保ちながら『みんなの雪名皇』を演じてきたつもりはあるんだけど、最近はそうも言ってられなくなった。だって木佐さんは不安がりで兎みたいなひとだから。ビクビクしているのに一生懸命強がってる。ホントに木佐さんは可愛いと思う。年上とか関係ない。ホントに可愛い。可愛いもの好きの俺が言ってるんだから間違いない。

「あのさ」
「んー?」
「相手って、三十歳?」
「うん。免許証見せてもらって確認済み。俺らの九歳上」
「…あれじゃね?結婚とか迫られたりしねーの?」
「いや?寧ろそういうのは相手があんまり望まないかも」
「へぇー・・・珍しい」
「仕事にプライド持ってるからね」

結婚かぁ・・・憧れではあったけど、同性婚はまだ日本では認められていないから出来ないし。でも、別に結婚とかそういうのはどうでもいいのかもしれない。俺は、ずっと一緒に居られればそれで満足だし。あぁでも、思い余って結婚して下さいとか言ってしまうかもしれないなぁ俺。だって木佐さん可愛いから。

「そっかぁ…」
「うん?」
「お前、幸せそうだなぁ」
「うん、そうだね。あのひとのお陰で毎日楽しいよ」
「うーわーイケメンの惚気って強烈ー…まーぶしー…」
「えぇー?あぁでもホントに幸せだよ」

ホントに幸せ。俺の毎日は、木佐さんと美術とバイトと愛に溢れてる。結構リア充だなぁ俺。木佐さんが甘えてくれるのも嬉しいし、甘やかすのも好き。だって彼は甘えてくれる事が滅多にないから。疲れてヘロヘロになったって愚痴はあんまり言わないし。だから目一杯甘やかすのが俺の役目。疲れているところにマッサージしてあげると気持ち良さそうにするし(ちょっと反応がアレだけど…うん、ちょっとおじさんみたい)、基本的に素直に受け入れてくれる。これからもずっと俺は木佐さんを甘やかしていくから、覚悟しておいてほしい。

「…って、友達に言ったの?」
「ハイ!まだまだこれから木佐さんの魅力を語るところでもういいって言われちゃって」
「うんお願いだからもう黙ってって言うかなに話してんだよ!」
「大丈夫です個人が分かるような話はしてないんで!」
「そういう意味じゃねぇぇぇ!」

今日あった話を木佐さんにした。別に隠す事ではないし、友達には普通に話をしただけなんだけど、語り出した途端から木佐さんの表情はどんどん険しくなって遂には叫ばれて怒られた。え、何でですかと問えばアホかお前恥ずかしいだろーがとこれまた可愛い回答。思わず引き寄せて抱き締めた。

「うぇぇっ…雪名!」
「うーん、やっぱり木佐さん可愛すぎると思うんですよね。こんな可愛いのに夜は凄いとかなんだかなー」
「待て」
「はい?」
「…まさか話した?」
「えー?いや、まぁそこら辺は若い男子なんで」
「てめっ…いっぺんシメられろ!」
「わわわっ痛いですよ!」
「サイテー!」

最低だなんて失礼な。でもただの誤解だから、あとでちゃんと訂正しておこう。俺が木佐さんの夜の彼是を誰かに言うわけない。だって彼のそんな可愛くて色っぽくて堪らないやらしさは勿体無くて誰にも教えてなんかあげたくないから。頬を紅くして俺をぽかぽかと叩く木佐さんの手を取って口付ける。木佐さんは更に顔を紅くして固まってしまた。

「木佐さん」
「な、なに」
「痛いです」
「う…ごめんなさい」
「はい、よく言えました」
「…うわムカつく」
「木佐さーん?」
「ごーめーんーなーさい!雪名のバカー!」
「あははっ木佐さん意味わかんないです!」
「うっせーバーカ!」

可愛い小動物のようなひとなのに案外口が悪い。でもそんなところも彼の魅力で、たまらない。思いっきり抱き締めて耳元で囁くと、ピタリと動きが止まって上目遣いに見上げてくる。…無自覚だから質が悪い。その顔はまるで誘ってるようですよ。

「…ゆ、雪名」
「言わないですよ勿体無い」
「も、勿体無いって」
「可愛い木佐さんは自慢ですけどあんな可愛くてやらしい木佐さん他の誰にもおしえ」
「分かったからもう黙ってお願いだから!」


これから先だってずっと彼とこうして進んでいく。幸せだと思う。好きなひととこうして一緒に居てじゃれあって。
幸せを謳歌する。




「…ゴチソーサマ」
「あれ?まだ話足りないんだけど」
「いやだもう聞きたくない」
「えーそっちから聞いてきたのに」
「うん、そうだけど雪名が幸せならそれでいーですてか胃もたれ起きそう…」
「デザート話してあげようか」
「いるか!」

幸せ謳歌。




自慢してないですよね…これ。兎に角木佐が好きすぎる雪名を目指した筈なんですが着地点間違えた←
友達は藪蛇。思いっきりアテられた感じです。書き直し受け付けます!
リクエストありがとうございました!

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