秋色サンデー





秋の訪れは突然だ。ある日の朝、冷えた空気に身体がついていけなくて、くしゃみで目が覚めた。隣に寝ていた人物は小さなくしゃみに反応し、「大丈夫ですか?」と声をかけてきた。

「ん…平気。ごめん、起こした?」
「いや、大丈夫です何となくうとうとしてたんで。それより」
「ん…」

長い手足が俺の身体を引き寄せる。ただでさえ密着して寝ていたのに、更にすき間を無くすようにぎゅぅっと抱き締められた。雪名の体温は、俺より少し低い。けれども今はとてもあたたかくて、猫みたいにすり寄ってしまう。

「んー…ぬくい」
「もう少し寝てていいですよ。ちゃんと起こすんで」
「うん…ありがとう」

そこまでの会話と、額にキスされたのは記憶にある。微睡みの中で今日一日のスケジュールを確認して、再び眠りについた。





「やぁっぱり涼しくなってきたなぁ」
「ですねぇ。俺は寒いの慣れてるんで平気ですけど木佐さんは駄目そうですね」
「あーうん、俺駄目だわ」

やっぱり、と笑う雪名を引き連れて、今日は都内の秋探しにやってきた。と、言うのも雪名の大学の課題に秋探しというものがあがったからなんだけど。東京は意外と自然がある。森に囲まれた公園が幾つも有るし、街中にも木々が溢れている。九月を半分以上過ぎ、朝夕の気温が急激に下がってきて、それでも日中は日差しがそれなりの強さをもって降り注ぐ、でも夏のような空気自体が熱を帯びて暑い訳ではなく風が吹くと何処か肌寒い、そんな季節。風邪を引きやすいのはこんな時で、歳を重ねる毎に気を使うようになった。それでも今朝のようにくしゃみで目が覚めてしまうようにちょっとの油断が大敵。歳か、歳なのか…!
雪名は流石北海道出身というか、寒さには強い。夏は夏で好きらしいし、基本的にどの季節でも好きらしい。俺は夏は嫌いじゃないけど、やっぱり春秋の丁度良い空気が好きだな。
秋は食欲の秋や読書の秋。様々な◯◯の秋が目白押しで、今回の目的も秋探し。職業柄、雑誌の進行の為に季節を先取りが当たり前で、実はあんまり季節らしい季節を感じる機会がないのが現実だ。だから今回の雪名とのお出掛け(雪名はデートだって言ってたけど、課題!まずは課題が優先だろうが学生!)は、結構楽しみにしていたり。
まぁそんなこんなで公園まで出向いた訳だけど。

「涼しくなったとはいえまだセミの声…」
「ホントですね、うーん、残暑って言った方が良いんですかね?」
「さぁ…空気は涼しいからなんつーか…」

九月半ばは正直一番着るものとか苦労する季節だ。片や長袖、片や半袖とか季節が混ぜ交ぜなのもこの時期ならではだよなぁ。俺は今日は長袖に軽くストール巻いただけの格好だけど、雪名は半袖にブーツスタイルだし。しかし…

「(何着ても様になるってどうよ?あー女の子達が振り返って見てる…スゲー、美形スゲー)秋、見つけられそう?」
「うーん、何だかそんなにハッキリした秋は無さそうですね、紅葉はまだですし」

言いながら、近くのベンチに腰を下ろす。スケッチブックの入った鞄を開けて、雪名は周りを見渡した。
…秋、秋と言えばスィーツが絶妙な甘さと優雅さをもって降臨する季節。あの店の新作ケーキ、ソロソロお目見えだよなぁ今度作家達にお土産として持っていこう。

「あっ!木佐さん秋限定さつまいもジュースですって!」
「うわ、微妙…」
「俺買ってきます」
「えぇぇー…?」

売店に掲げられたさつまいもジュース(どんなだよ…ドロドロのスイートポテト?)を買いに雪名が行ってしまった。恐いもの見たさってヤツかな…若いなぁ。俺無理。冒険心ありまくりな頃は疾うに過ぎてしまった。
ジュースを買いに行く際に置いたスケッチブックが風に煽られて捲れそうになる。慌てて押さえようとしたけど間に合わなくて、中が少し見えてしまった。

「戻りました〜」
「…」
「木佐さんにはコーヒー買ってきました!」
「…雪名」
「見てくださいこの色!すっごい黄色ですよ!所々にある紅紫は皮らしいですよー蜂蜜とか入ってるらしくて」
「おい、雪名」
「木佐さんも飲みます?ハイ?」
「このスケッチブックに描かれてる人物画について説明してみろ」
「えー?あっ、木佐さんモデルのですか?趣味です」
「キッパリ言い切ったなぁおい!」

スケッチブックに描かれていたのは間違いなく俺で、ナニコレ一体何で俺がいっぱい描かれてんの!?

「趣味と実益を兼ねて。木佐さん寝てる時の顔とかマジで可愛すぎなんでこう筆がサラサラーっと」
「サラサラーっとじゃねぇよ何勝手に描いてんの!」
「あ、でも友達にはなかなか好評なんですよ」
「見せんなよ!しかも実益って…何に役立ってんの!ってかはずかしっ…」
「俺のイマジネーションと言いますか、パッションと言いますか。大丈夫です超可愛いんで!」
「………」

何が可愛いから大丈夫なのかさっぱりなんだけど、雪名はちょっと変なトコがあるから結構会話が噛み合わない時がある。
取り敢えず恥ずかしい。寝ている時(基本俺は寝てる時熟睡するから、周りで何が起きても分からないんだよね…)の俺ってこんな風なのか…!
スケッチブックに描かれていた俺は、基本的に全て寝ているんだけど―時々起きている画もあったけど―何て言うか…その、雪名の気持ちがこもった絵で…その、…物凄く優しくて甘やかな絵で。ただうつ伏せ気味に寝ているだけの場景なのに睫毛の一本、肌の質感、そして何より表情が、雪名が見ている世界なのかと思うと恥ずかしくなる。ナニコレちょっとした羞恥プレイ?俺、マゾじゃないけど!
恥ずかしくて買ってきてくれたコーヒーに口をつける。隣でニコニコと微笑む美貌の王子様は上機嫌にさつまいもジュースを飲んでいる。

「甘っ!予想以上の甘さです!でも美味しい。木佐さんも飲みます?」
「…いらない」
「何でそっち向いてるんですか?」
「べっつにー!てか秋!秋は何処!」
「うーん?残暑な気候なんで探すの難しいっす…あ、でも」
「何?」
「木佐さんの顔が赤くて林檎みたいで可愛いんでそれが秋かなぁと」

…な、何て恥ずかしい事をさらりと言うんだこいつ!此処は外で、今日は日曜日で周りに人が沢山居るのに!俺の顔がぶわわわわっと更に赤くなったのが自分でも分かって、雪名に背を向けた。

「なんでそっぽ向くんですか?」
「何でもない!」
「木佐さん」
「何だよ!さっさと秋探せ!頑張れ学生!」
「はい、頑張りたいんですけど」
「じゃぁ頑張れ!」
「そんな顔真っ赤で可愛い木佐さん見てたら、課題どころじゃないです」
「はぁ!?」
「取り敢えず今日は秋刀魚と筍ご飯でデザートは林檎みたいな可愛い木佐さんって事で」
「いっみわからん!」
「だからー」

ボソボソっと耳打ちされた内容に、林檎なんか目じゃないくらいに顔が赤くなる。もう駄目限界!雪名は華やかな笑顔で俺からの返事を待っている。

「お…」
「お?」
「大人をからかうなー!!」

言いながら何叫んでんだ自分と思ったけど、雪名を見ていたら絶対に面白がってると思って、口に出ていた。さっきの耳打ちの内容は男の性(さが)そのもので、でも兎に角今はまだ駄目だ!秋はまだ見つかってない!

「からかってないです本気です」
「余計タチ悪いわ!」
「えー」
「えーじゃない!とっ兎に角今は駄目!せめて何か見つけてからじゃないとっ折角ここまできたのに収穫無しは認めません!」
「うーん、俺的にはもう見つけたんで。林檎みたいに真っ赤な可愛い木」
「それ以上言ったらその綺麗な頬に紅葉作るぞ」
「スミマセンでした!」

紅葉と言いながら拳を握ると、木佐さんそれ紅葉じゃないです!松ぼっくりです!と言われた。
気を取り直して秋探しを再開。そうして公園内を散策していたら気がつけばもう夕方で、大分日が沈んでいて暗くなっていた。少し肌寒いかもと思っていたら案の定。

「…っくしゅ」
「あれ、寒いですか?」
「んー…ちょっと」

今朝のくしゃみの事もあるので、雪名の心配そうな顔が心に痛い。

「暗くなるのも大分早くなりましたね。帰りましょうか」
「うん」

ササッと周辺に散らばっていた鉛筆やらを集めて鞄にしまう雪名は、半袖にもかかわらず全然寒そうじゃない。凄いなぁ…。それにしても時が経つのは早い。あっという間に夕方で、楽しい時間は刹那の如くだ。

「木佐さん帰りにスーパー寄りましょう」
「ん…秋刀魚に筍ご飯?」
「はい。アップルパイはさすがに今日は無理なんで。まだ梨は売ってますかね」
「あーギリギリかも」

なんて話ながら帰路についた。

なぁ、雪名。今日は秋探しだって言ってたけど、本当はそんなのどうだって良くて、ただ、二人で出掛けられて嬉しかったんだよ。いつもいつも仕事のせいにして、二人で出掛けるなんてあんまり出来ないから。だから、林檎みたいだとか言われて恥ずかしかったけど楽しくて。時があっという間に経ってしまって、ちょっと残念。そうだ次は紅葉狩りにでも行こう?

結局、その日の夕飯後に熱が出てしまって、雪名の俺がデザート作戦(作戦だったのか…)は失敗に終わったんだけど、懸命に看護をしてくれた雪名に滅多に言わないアイラブユーをそっと呟いた。
雪名の顔が赤く色付き、まるで林檎のようで、俺は笑った。
可愛い年下の男の子なんて歌詞の歌があったなぁなんて言ったってジェネレーションギャップに苦しむだけだから言わないけど!



秋らしい話じゃない…甘くない…何かが可笑しい。書いてる内にどんどん雪名が暴走して最後まで暴走しっぱなしでしたスミマセン!素直に紅葉狩りに行かせれば良かった。
平凡な日常の中にある幸せ〜みたいなのを書いたら普通に会話する話になりました…スミマセン良かったら書き直しますので遠慮なく言って下さい!
リクエストありがとうございました!
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