尻尾、千切れそう




彼はいつだって素直だ。直球で玉(言葉)を投げてくるし、受け取るのだってストレート。しかもよくそんな事言えるなお前はフランス人か!と言いたくなるくらい恥ずかしい玉が投げられる。それはどんな場所でも、どんな状況でも。

「木、佐、さーん!」
「…こんばんは」
「こんばんは、お疲れ様です。今日はお誘いありがとうございます!体調とか大丈夫ですか?」
「あぁうん。まだそんなにやる事ないし、余裕あるからさ」
「そうですか、じゃぁ今日は目一杯いちゃいちゃ出来ますね!」
「………」

ば、バカじゃないかこいつ!こんな公共の場でなんて事!

現在お付き合いしている9歳年下の彼氏、雪名皇は、その王子様のようなルックスと性格。加えて手先の器用さや話し易さなど、数え出したらキリがない位の優良物件だ。初恋実って(30歳にして初恋だとか俺どんだけだよ…)お付き合いというものをしている訳だが、今日は仕事がまだそんなに忙しくもないし、夕飯でも食べに行こうと俺から誘った。案の定、凄く喜んでくれて、先刻から華やかすぎるオーラが目に眩しい…!
只でさえキラキラオーラを纏っているのに機嫌が良いとキラキラ以外に更に花が見える。いや、マジで。少女漫画みたいに花がこう、ぶわっっと咲き乱れるんだよ!今だって乱舞だよ狂い咲きだよビックリだよ!
けれども、彼がこんなに喜んでくれるのが俺が誘ったからだと思うと、俺の目尻も自然下がる。
今のこいつの状態を犬に例えるならそう、尻尾を千切れんじゃないかって位にブンブン振ってるゴールデンとかの大型犬。おぉ…可愛い。
しかし。こんなに喜んでくれるなら普段からもっと構ってやりたい…。
編集という仕事は、プライベートを削ってでも仕事に従事(作家の愚痴や、相談。夜通し展開について話し合ったり資料集めに都内を走り回ったり取り寄せたり。時間外労働当たり前。いい作品を描いて貰うためなら何だってする!)する仕事な訳で、それが悪い事だとは思わない。
けれど、こんなにも出掛ける事を楽しみにしてくれるのなら、普段からもっとマメに構ってあげたい。…雪名の包容力のお陰でもってるようなもんだし俺ら。ごめん、不甲斐ない年長者で。
そんな事を考えてるとは露知らずキラキラオーラ全開な雪名は、然り気無く俺の荷物(作家への参考資料類で、本屋に寄って買ってきたやつ)を持つと、溢れる笑顔で「さぁ行きましょうか」と言った。

「行ってみたい店があるんです。和風創作イタリアン居酒屋なんですけど」
「和風でイタリアンで居酒屋?…此如何に」
「あははっ、結構美味しいって学校の友人が言ってまして。そんな高くもないらしいし行ってみませんか?」
「行く。面白い」

雪名の友人曰く、和洋折衷な料理が自慢の店らしい。
待ち合わせ場所からすぐに着いた。成程、初めから今日はこの店に連れてくる気だったんだな。何処までも徹底して王子様スタイルを崩さない。ホントに大学生なのかと疑いたくなる位にエスコート慣れしている。
と、まぁちょっと感心しながら店内に入ると、全体的に和な造りの店構えで、個室になっていた。
案内されて入った部屋は二人用の部屋で、おぃおぃコレ明らかにカップル用じゃないかいいのか男二人って怪しまれるぞ!とも思ったがそこら辺は流石というか、キラキラオーラで店員を魅了し有耶無耶にしてしまった。

「…さっすが王子様」
「ハイ?此処なら人の目を気にせず楽しめますよね」
「あぁうん、そうだね」
「あ、木佐さん。お薦めはどうやら…」

「ん…美味い」
「ホントですね。器も凝ってるし」
「和風イタリアン恐るべしだな」
「ですねぇ」

和風創作イタリアン居酒屋は中々の美味しさで、酒も程よく進むし楽しく食事が出来るようになっていた。このマリネとか超美味い。柚子の香りが程よく食欲をそそる。
なんて食事に舌鼓を打っていたら。

「木佐さん」
「うん?なに?」
「それ美味しそうですね、俺にも下さい」
「うん、いいよ。ハイ」

と、雪名に言われたので皿を移動しようとした時。

「木佐さん、ココは、「はい、あーん(ハート)」ですよ!」
「ぶっ…ゲホゲホッな、なに…」
「大丈夫ですか?ここ、折角の個室なのにやらなきゃ勿体無くないですか?」

「はい、あーん」とか何言ってんの!そんな恥ずかしい事出来る訳ないじゃないか…!
幾ら個室だからって、家でならまだしも注文だってまだ全部来てないんだからいつ店員が来るかも分かんない状態で出来るか!
と言ってやりたかったのに…。…尻尾、尻尾が千切れそうなのに加えてキラキラというかワクワクとした綺麗な瞳に見つめられたら、やってあげたくなるじゃないか…。

結局、意を決して「はい、あーん」をしようとした時に店員が注文品を持ってきたりして慌てたり(行ったあとにしっかりやらされたよ…!)、機嫌の良い雪名に身も心も愛されたり色々あったけども。
結局、尻尾が千切れんばかりに振られてしまえば。

構ってあげたくなるんだよ!





雪名が唯のお馬鹿さんになった。可笑しいなスマートに甘えさせる予定だったのに。


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