殺したということ

[heroine side]
隣でミラがぶつくさとなにかを呟いている。何か様子が変だ。その表情は暗くて重い。時たま私の顔を盗み見て眉を下げる。先の『ミラ』についての悩みだろうか。いや、それともまた別のような気もするな。

アルクノア兵との戦闘も増えてきた。それは勿論この船に長居し続けていると当然で。警報が鳴り響く船内で今はなるべく敵に見つからないように逃げている。
戦って得るものは残念ながら疲労だらけだった。一番酷かったのはミラ目掛けて自爆していった人たち。聞くと、今となりにいるミラは自分の世界にてアルクノアを壊滅させていたらしい。
その時の話題からミラの顔は再度曇りだした。
私と一緒で彼女を放っておけないと思うのはエル。眉を潜めるミラにどっかケガした?と窺っている。

「……ねぇ、エル。もし私が、あなたのパパを殺したらどうする?」

「パパを……殺す?」

エルはきょとんと大きな瞳を瞬いた。次第にその意味を頭で理解したようで悲痛めいた声をあげた。

「パパは死なないよっ!エルがカナンの地にいって助けるんだから!パパは……エルのパパはっ……!」

「お、落ち着いて!今のは例え──ウソの話よ」

「なんで……ウソの話なんかするの?」

「ごめん……」

今にも泣きだしそうなエルにミラは謝った。
そういえばエルの口から出てくるのはパパのことばかり。女の子ならママのことを多少は口にしてもいいはずなのに。…もしかしたらエルにとっての家族はパパだけなのかもしれない。そんなエルに今のミラの質問はきついものがあったのかもしれない。

(ミラは今弱ってるから思ってないことまで言ってしまうのかもしれないな)

エルの耳がピクリと動いた。そして私の顔をみる。今の聞かれたのだろうか……?
エルはアローサルオーブを持っていない。私の想いは伝わらない、そう思っているのだけど。
私が首を縦にふるとエルもこくんと頷いた。
子供はよく幽霊が見えたりと大人にはできない非科学的なことをしてくれるけれどもしかしたらそれ同様子供相手に伝わりやすい式が使われたのかもしれない。

「べつに、ゆるしてあげるけど、ウソでもヤなこと言わないでよね」

わかったわ。そう言ったのを確かに聞いたエルは先へと進む。小さな背中を見つめて、ミラは小さくぼやいた。

「はぁ……元精霊の主が、なんてザマ……」

「人間らしくていいじゃないか」

落ち込むミラにルドガーがそう言う。すると、ミラはかすかに顔を上げた。苦笑いを浮かべながら話しだす。

「人間らしい……か。ずっとそう言われたいと思ってた。でも、人から見たら、私はいつまでも元精霊の主で──……ううん、立場にとらわれていたのは、きっと私の方だったのね。だから、守るべき世界がなくなって、はじめて願いが叶った」

「…………」

守るべき世界。その単語を、私は私だけが知るミラから聞いたことがあった。例え話だとかこつけていたけれど。「本物のマーボーカレーと偽物のマーボーカレーがあるとする。どちらか片方しか食べれないとするならばどちらをとる?」という質問の次のことだ。「ならばそれが世界だったら?君は本物と偽物、片方しか救うことができない状況において本当に守るべき世界はどちらにあると思う?」話が突拍子もなさすぎて内容を理解するのに時間がかかったのを今でも覚えている。因みに前者に関しては勿論本物のマーボーカレーが食べたいと返した。だって偽物のマーボーカレーって。想像したくもないけれどあまり良いものは連想できないわ。

(あの時、私が出した答えは……)

本物の世界と言ったはずだ。その答えにそうかと言うミラは少し悲しそうだった。所詮私はごく一般の小娘で。他人事は他人事。第三者が思い付く当たり前の回答を当たり前のように返したにすぎない。もしミラが。自分のいた世界を分史世界と理解した上での質問だったとするならば、私はすごく最低な発言をしていたことになる。

(最終的に「君が選んだ守るべき世界。私も守らせてもらおう」なんて言ってさ……)

意味がわからなかったので適当に頷いていた。
だけどその会話をしたことだけはずっと覚えていたのだ。あの時、ジュードたちが私の世界にやって来たときも頭の片隅に残っていたし勿論実行した。私は彼女に言った通りに本物の世界を救った。「私も皆さんの力になれるようなるべくお手伝いさせていただきますね」そう口にしたとき。あのときのミラの言葉が浮かんで、それからは有言実行。だって、やらなければならない。そう口にしたのだから。


(彼女を…皆を殺したのは私なのかもしれない)



第三者になりすぎてはいけない
(言(行)った分だけ返ってくる)

2014.12/31


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