独白
さようならの代わりに
※バクティオン決戦直前。ユリ→←レイ。
ぼうっとした頭は、まるで感情をどっかに落っことしてきたみたいだ。
いや、ずっと前から解ってた。何もかも、俺の中の何もかもが薄っぺらくて嘘っぱちだってこと。
それでも、ああそれでも、楽しかったなあ。
後悔と懺悔が頭に浮かぶぐらい、楽しかったなあ。
そんな風に思い出して、満足感に浸れるのはきっともうすぐ終わりがくるからだ。
嬢ちゃんにはすまないことをした。
まるで恩を仇で返すような真似をしてしまった。
「でも、大丈夫」
みんな、来てくれる。
たとえ地の果てだって空の向こうだって、嬢ちゃんのためにみんな来てくれるよ。
そんで、青年は俺を許さないだろう。当たり前か、と小さくつぶやく。
薄暗い打ち捨てられた神殿で、俺は騎士団隊長の服を羽織った。
これを着たら、俺はレイヴンでなくなる。
シュヴァーンという名の、ただの道具になる。
紫の羽織が地面に落ちて、動けないまま俺はそれを見つめていた。
いつまでそうしていただろうか。頭の上のさらに上、天井の向こうが騒がしくなったのが解る。
ああ、やっぱり。
来て欲しいような来て欲しくないような、けれど必ず来るだろうという確信。
彼らがここに辿り着くまでにはもう少し時間がかかるだろう。
俺は隊長服を肩に引っ掛けたまま、その場に座り込んだ。
紫の服を手に取り、上を仰ぐ。もうしばらく、ただのレイヴンでいたかった。
ジュディスちゃん、若い身空で使命ばかりじゃいかんよ。楽しみをたくさん見つけて、もっと魅力的な女性になってね。
少年、少年はきっと、立派な首領になるわよ。大きくなってく凛々の明星を見られないのが残念だわ。
パティちゃん、無事に記憶、戻るといいわね。ドンには俺がよろしく言っとくわ。
リタっち、嬢ちゃんの力のことならリタっちが絶対どうにかできるわよ。もう利用されないようにしてあげてね。
フレンちゃん、厄介な後始末ばっかですまんね。騎士団のことは好きにしなよ。たぶんおたくは間違わないから。
嬢ちゃん。
ごめんね。本当に、ごめんね。許してくれなくていいよ。
わんこ、青年のことよろしくね。俺なんかに言われなくたって大丈夫だろうけどさ。
青年。
青年には、すっごく言いたいことがたくさんあるわ。
まず、もっと周りを頼りなさいな。なんでもかんでも自分だけでどうにかしようとするんじゃないの。
どんな時でも、背中を支えてくれるみんながいるんだから、あんまり無茶すんじゃないよ。
そんで…そんでね、ありがとう。
こんな俺を、道具としての価値しかなかった俺を、嘘ばっかりの俺を。
すきになってくれて、ありがとう。
すきって言ってくれて、ありがとう。
答えをまだ返せないままで、ごめんね。
…でも、もうおしまい。
青年にはまた、嫌な役回りさせちゃうけどさ。
俺みたいな死人の、道具の命なんて背負わなくていいから。
さっさとこんなおっさんのこと忘れて、ジュディスちゃんでもリタっちでもパティちゃんでも嬢ちゃんでも、俺の知らない誰かでも。
とにかく誰かと、とにかく幸せになりなさいな。
ぽたり、と何かが石畳の上に染みを作る。
それが何かを考えるのはやめて、俺は肩の服に袖を通した。
足音がどんどんどんどん近くなってくる。
そう、俺はこの瞬間を。
自分が終わる瞬間を、待っていたんだ。
騎士団隊長の格好をして、みんなの前に立つ。
驚いた顔と、辛そうな顔と。俺は今、どんな顔をしてるんだろう。
「シュヴァーン・オルトレイン…参る」
さあ早く、俺を終わらせて。
すきってなんだっけ、そう思いながらも惹かれていた