あなたとあなた
どっちがすきなの?
柔和な印象の顔が、戸惑いを全面に出している。
わかりやすすぎるその表情に苦笑して、彼は結っていた髪を解いた。
はらりと落ちた前髪が、顔の半分を覆い隠す。

「本当に…あなただったんですね」
「フレンちゃんってばぁ」

ひらひらと手を振りつつ、レイヴンは茶化すように言った。
だが目の前の生真面目を絵に描いたような青年は、真剣そのものの顔をしている。
その事実に軽く息を吐いて、彼は続けた。

「がっかりした?」
「いえ…驚いただけです」
「そのわりには残念そうに見えるんだけど」
「…すみません」

ダングレストの宿屋にある一室で、フレンは申し訳なさそうにつぶやく。
ユーリとジュディス、パティは買い物に出かけ、カロルとエステルはユニオン本部へ用事があると言って出て行ってしまった。
待ってろ、と言い残したユーリの言葉を真面目に守っていると、入れ代わりでレイヴンが部屋に入ってきたのが先ほどのことだ。
ルブランから、騎士団隊長の服を受け取ったのだと言いながら、彼はそれに腕を通していた。

「そうしていると…シュヴァーン隊長が帰ってきたようで」
「そっか。まあそうだわな」
「その、それでその口調なのがなんていうか」
「違和感あるわよねえそりゃ」

言いながら、レイヴンは隊長服を脱ぎ捨てる。
あ、とフレンが小さく声をあげたのがわかった。
なあに?と首を傾げて問うと、さっと目を伏せる。

「フレンちゃんはさあ」
「…はい」
「レイヴン、よりシュヴァーン、の方が好きなんだよねえ」

普段の服を手に取り、レイヴンは言った。
そんなことは、と言おうとするも、それを生真面目な性格が邪魔をする。

「シュヴァーン隊長は…素晴らしい人、でした」
「俺はそう思わないけどね」
「たとえ僕が見ていた彼が偽りだったとしても…僕は、あの人に出会えたことが幸せだと…そう思っています」
「今も?」

一歩で短い距離を詰め、その顔を覗きこんだ。
少しの間があって、青色の瞳がレイヴンを見る。

「…はい。今も、です」

その言葉と微笑みは、自然と彼の動きを止めた。
ふわりと優しい腕が体を覆う。そのままきゅっと抱きすくめられ、バツが悪そうに視線が彷徨った。

「僕は、レイヴンさんのことをほとんど知らないんですから」
「あー、えっと…そうねえ」
「教えてください、あなたのことを」

ゆっくり体を離し、フレンは笑って言う。

「シュヴァーン隊長ではない、ただのレイヴンさんのこと、もっと知りたいんです」
「フレンちゃん、さすが…」
「え?」

何か言おうとして途中で止めたレイヴンに、不思議そうな声を返した。
当のレイヴンはと言えば、フレンの肩口に額を押し当て息を吐いている。

「なんでもないわよー。でもあんまりそういうこと、言うもんじゃないわよー」
「何故ですか?」
「何故、って…」

思わず言い淀むと、心底不思議だと言うように彼は問いかけた。
それが本当に心の底からの行動なのか、レイヴンが言い淀むことをわかっての行動なのか、レイヴンにはわからない。
ああそうか、と一人納得しつつ彼は答えた。

「ねえフレンちゃん。俺も、フレンちゃんのこともっと知りたいって言ったらどうする?」

悪戯っぽく笑って言う。
その表情はフレンには見えなかったが、一瞬のあと抱きすくめる腕に力が入ったのが解った。
やがて、小さくつぶやく。

「軽く、自惚れます」

その答えに満足そうに笑うと、レイヴンは彼の背に手を回した。


フレレイでもフレンちゃんが押すと思う

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