彼は大人になりたかったらしい。僕も大人になりたかった。だから彼と僕は同じだと無理矢理こじつけてみたのだけれど、僕と彼の大人になりたい、という願いは方向性が全く逆で似ても似つかない。僕は大人になりたい。子供扱いをされるのが嫌だから。彼は大人になりたい。大切な人を守りたいから。
「無理だよ、スノウは。大人になんてなれない」
「おいおい。俺の方がお前よりは大人だと思うんだけどなあ」
「そういう事言うのが子供だって言うんです。身体だけ大人になっただけじゃないですか」
なあ、それならどうしたら大人になれると思う?そう笑って聞いてきたスノウを一瞥。それくらい自分で考えてよ。僕だって分からないんだ。どうすれば大人になれるか、なんて。きっと答えなんてどこにもない。そんなの知ってる。だけれど改めて言葉にしてみる事で答えが見つかるような気がしただけ。大人になれると思っただけ。こんな事を考えているからきっと僕はまだ大人にはなれないんだろう。
「俺は、お前はまだ大人にならなくても良いんじゃないかって思うけど」
「…どうして」
「お前が大人になっちゃったら俺が守らなくても大丈夫になっちゃうだろ?」
守る守る、ってそればかり。もっと他の事に頭を使えないのだろうか。僕は守ってもらわなくたっていい。自分の身は自分で守ると決めたのだ。幾らスノウにだからって守ってもらう気はない。恋人みたいな関係だからって甘える気もない。
「守ってもらう気は、ないよ。僕の身体は僕が守る」
俺より大人らしいな。笑ったスノウに抱き締められて僕は思う。僕が大人になれないところをスノウが補って、スノウが大人になれないところを僕が補う。もうこれで良いんじゃないかな。頭に乗せられた手がとても優しかった。
補いあう関係