「…おい」 「っ!」 小さな肩がびくりと震える。さっと前に突き出されたのは、起動武将タダカツとやらのイメージキャラクターのぬいぐるみ。 この女、名を徳川家康というらしいが、どうも意味がわからん女だ。常にぬいぐるみを離さないし、室内でもフードを取らない。極度の照れ屋だと聞いているが、ここまでとは。 「貴様…それが人と話す時に相応しい態度だと思っているのか?」 「…うぅ」 ちら、とフードの中にある大きな瞳が私の方を見た。それはうっすら涙を浮かべている。家康は背も小さいので、その姿は子供のように見える。同い年だというのに。 互いの共通の友である長曾我部が、私に家康の事を紹介してきたのは一週間前の事。お前と友達になりたいんだとよ、と、笑いながら言った長曾我部の後ろに、ぷるぷるしながらくっついている姿が初見だった。第一印象からして、変な女だと思った。 今は長曾我部の計らいにより二人で喫茶店にいるが、初めから今まで家康は何も話さないし、顔を赤くしてぬいぐるみに顔を埋めているだけ。 私だって暇ではないのだ。段々苛ついてくる。 頼んだコーヒーを少し乱雑に置くと、また小さな肩が震えた。 「貴様は長曾我部がいないと何も出来ないのか?」 「…」 「私と友達になりたいのではないのか?」 「…なり、たい」 今にも消えそうな火のような声がかろうじて聞こえてきた。お願いだから優しくしてやってくれ、と言った長曾我部の言葉を支えに私は平静を保つ。 「ならばせめて、そのフードを取れ」 「…えっ」 「私はまだ貴様の顔をしっかり見た事がない。だから顔を見せろ」 「い、いや…恥ずかしい…」 「貴様…ならば私は帰るぞ」 「いや!」 がた、と机が鳴った後、意を決したように小さな手がフードを取った。顕になる顔は、年相応には見えず、あどけない少女のようだった。しかしとても、可愛らしい。 くるりとした睫毛、大きな飴色の瞳、ふわふわの唇に、林檎のように染まった丸い頬。 「貴様…なんて勿体無い事を…」 「…え?」 「いや、やはり被れ! 心臓に悪い!」 「ひ、ひどい…だからわし、いやだったのに…」 「違う! そんな可愛らしい顔見ていたら惚れる!」 「えっ」 「あっ」 かああ、と音が聞こえるかと思った。湯気が出るかと思った。そんな私以上に家康はあわあわとしている。 ぬいぐるみで顔を隠し、フードを再び被ると家康は一目散に喫茶店を出ていってしまった。私はそれを、追う事が出来なかった。 (一目惚れなど、認可しない!) ファーストコンタクト |