重たい頭にぴたりと吸い付くタオルの水気で目が覚める。ぼやけた視界に映ったのは真っ白な天井と、照明に反射する銀色の髪。

「わりぃ、目ぇ覚ましちまったか。」
「元親 …?なんで、」
「慶次から 聞いたぜ。熱あるくせに大学行って、案の定ぶっ倒れたんだってな。」
「は、はは、あはは…。」

そういう時は黙って寝てれば良いんだよと、ワシの髪をくしゃくしゃに撫でた。慶 次のやつ、心配して元親に連絡してくれたのか。年下の恋人にまで世話をかけてしまうなんて、申し訳なさから顔を布団に潜らせた。ちらりと近くの時計を見る。時刻はまだ15時を過ぎた辺りだった。

「お前、高校はどうしたんだ?」
「何言ってんだよ、授業よりもこっちの方が大事に決まってんだろ。」
「…サボったのか…。」

ああ先生方ごめんなさい。ふふんと鼻を鳴らす高校生を見て、ワシはまた布団に潜り込んだ。ワシが倒れたと聞いて、一目散に駆け付けてくれたのは勿論嬉しい。嬉しいが、大事な授業を抜けさせてしまったこと に 、深い罪悪感を覚えざるを得ない。

「そうだ。俺、家康が寝てる間に卵がゆ作ったんだぜ。」

小さく唸るワシには気付かず、元親はご機嫌な様子で台所に駆けて行った。かちゃかちゃと食器の合わさる音が耳に止まる。数分後、お盆に小振りの鍋を乗せて元親は戻ってきた。

「俺特製の卵がゆ!これ食ったらあっという間に元気モリモリだぜ。」
「わ、わざわざ作ってくれたのか…?」
「当たり前だろ。ほら、口開けろって。」

柔らかな卵黄色の粥をレンゲで掬い、ふうふうと熱を冷ます。食べることくらい自分で出来ると言ったが断固拒否されてしまった。 目の前でゆらゆら揺れるレンゲ。もそもそと体を起こし、小さく口を開け、恋人の手作りの粥を頬張った。丁度いい塩気がじんわりと広がっていく。思わず頬を緩めて笑った。

「うん、美味しい。」
「だろ?ほら、もっと食えって!」
「ああ。でも、一人で食べられるから。」

大好きな人にこんなに世話をかけてもらえるなんて、ワシは本当に幸せ者だと思う。だが、それ以上に、大好きな人に迷惑をかけたくない気持ちが大きくなって、ワシはつい元親の手から小鍋とレンゲを取ってしまった。少し驚いた表情だった
が、元親はすぐに不満げな顔をする。その顔つきに戸惑いながら、うんうん美味しいよと、忙しなく卵がゆを口に入れる。安心させようとにっこり笑いかけてみたが、恋人は益々不機嫌を露わにした。

「…何でこういう時でも、頼ろうとしねえんだよ。」
「頼っているさ。元親が側にいてくれるだけでワシは、」
「そういうのじゃなくて、」

荒げた声で、ワシの言葉を遮る。暫くの沈黙。もしや嫌われてしまったのではと、心臓が急にどくどくと騒ぎ出した。謝ろうとした矢先、元親は、ワシの手を掴み取って、真剣な眼差しをワシに送る。

「俺って、家康の何。」
「な、何って 、…こ、恋人。」
「だったら、ちゃんと甘えとけ。」

年下とか、関係ねえだろ。一人の男性、恋人としての本音。静かな瞬間が流れ出した。握られた右手の体温がどんどん上がっていって、熱は顔にまで回ってきて、体中がざわざわ温かくなって。ああもうと、 元 親は体裁が悪いように頭をぐしゃ
ぐしゃにかき回す。ワシって、こんなに幸 せ者で良いのだろうか 。

「なあ、元親。」
「…んだよ。」
「さっきの、もう一回やってほしいな。」

そう言って、少し冷めてしまったレンゲを揺らしてみせる。忽ち、ワシの大好きな笑顔が花開いた。





こちらは「淵となりぬ」のりんご様からいただきました小説です!
かっ…かわわわわわ!これぞ!親家ですよ皆様!可愛いいいいいきゅんきゅんする!きゅんきゅんする!私も卵がゆ食べたい!寧ろ二人を食べた(ry
すみません萌えすぎてあらぶりました…。
りんご様リクエストに応えていただきありがとうございました!^///^