メールやインターネットといった、初歩的なことに始まり

1週間も過ぎる頃にはワードやパワーポイントまで使いこなすようになった。

ただ、エクセルはなかなか難しい。

『一番使い勝手の良いツールだから、覚えておいて損はないわ。』とスパルタ方式で講習を続けるなまえ。

毎日真島組事務所に訪れるなまえを、最初は不審に思っていた真島も

南の熱烈な説得の甲斐あってか今ではスルーしている。

最も、終業後に真島を送る運転手は相変わらず

例の場所へ送り届けていることを漏らしてはいたが。


そんな話を聞くたび、南の右脳は中学生男子のように活性化した。

きっと独占欲の強い真島のことだ、南と一緒にいるなまえを見て嫉妬せずにはいられないだろう。

そんな様子をおくびにも出さず、なまえの前でだけさらけ出しているのかも知れない。

それでもなまえが平然と南へ講習を続けられているのは

もしかしたら真島の褥で何かとんでもないことをされた見返りなのかも知れない。


信じられないくらい賢い真島のことだ。

きっと南のささやかな恋心くらい見抜いていることだろう。

朝方まで自分の下で乱れに乱れていた女が、昼には何もなかったかのような顔をして

淡い恋心を抱く、何も知らない年下の少年に接している。

それくらいの悪趣味、真島であれば朝飯前の余興に過ぎない。


「・・・頭、入ってる?」


悶々とイケない妄想を繰り広げていた南の頭に刺さる、なまえの声。

ぼんやりしてしまっていたのだろうか。

せっかくのなまえとの素敵な時間に何を、と南は自身を責める。


「す、すんまへん。」

「まぁ今日は遅くなっちゃったもんね。」


ごめんね、私の都合で。

なまえは少し申し訳なさそうに笑う。

言い回しや講習の内容はとても厳しいのに、こういう気遣いは人一倍だ。



いつもなら夕方や午前中、ふらっと事務所に現れてはいきなり講習を始めるなまえなのだが

今日はどうしても仕事の都合がつかないとかで、かなり深い時間になってしまっていた。

時計はもうすぐ11時を指そうとしている。



極道とはいえ、構成員の朝は早い。

今日もめざ●しテレビの『オハヨーゴザイマース』と共に目を覚ました南にとっては

ついうとうととしてしまっても仕方がない時間といえば、そうなのだが。

それでも高まる胸の鼓動は、すぐ隣で画面を指さし説明するなまえに

聞こえてしまわないように祈るだけで精一杯だった。


「いえ、俺は大丈夫です・・・」


言いながら、再度もう遅い時間だと認識する。

本当ならばこれから一杯どうですと誘いたい所だが

親父の女。

その事実が南となまえとを決定的に隔てていた。


「今日は申し訳ないけどこの辺にして、とっとと帰りましょうか。」


明日も早いんでしょう、なんて言いながら帰り支度をするなまえ。

そうか、親父の女だ。

それなら当たり前のことをすればいい―――


「俺、送っていきますよって。」


社用車として用いている車を走らせること10数分。

個人的には見慣れた住宅街のマンションのすぐ近くに車を止める。

特に会話のなかった社内は、たまに流れるラジオの懐かしい音楽に

なまえが鼻歌を歌う声が紛れる程度だった。


その一挙一動が南を純粋な恋心に駆らせるというのに

全く、男も男なら女も女だ。

何を考えているか読めない点では、似た者同士なのかも知れない。


「ここら辺で・・・」


黒塗りの高級車がマンション前で留められたとあっては迷惑だろう。

南なりに気を遣って、なまえのマンションへ続く曲がり角へ車を留めた。

懐かしい、昔の洋楽が柔らかに車内に流れていた。


ドアと車窓の間、わずか数センチの空間に肘をついて外を眺めていたなまえが

ふと振り返り南を凝視する。

サイドブレーキを引かず、すぐにでも発進できるよう体勢を整えていた南に。


こんな時間なのに化粧は少しの隙もなく整っていて

口紅は牡丹のように赤い。

街頭に照らされた髪は濡れたように艶めきだって

ぐっと南を見つめる目は吸い込まれてしまいそうなほど深い。


「・・・来ないの?」





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