加齢臭 ep.秋山の場合



「ねぇなまえちゃん、俺ってくさい??」


ソファの背に首をもたせ掛けたまま秋山が問う。

藪から棒に、となまえが顔だけ向けると

すっかり項垂れた秋山の顔が生首のようにそこにあった。


「・・・どうしてですか?」

「だってさぁ、今日俺見ちゃったんだよねー」


花ちゃんが俺のデスク周辺にファブ●ーズしてるの。


はぁ、とため息が室内の空気を揺らす。

エリーゼの女の子もさぁ、俺の席だとやたらおしぼり変えるしさぁ、

そりゃあ集金で外回りしてりゃ汗もかくけど

スーツはちゃんとクリーニングしてるしさぁ・・・


「そりゃ、しますよ。」


なんだそんなことか。

なまえは迫りくる締切と戦うため、もう一度眼鏡をかけなおした。

パソコンに向き合う直前、目の端に移った秋山は今まで見たことのない顔をしていた。

木枯らしが吹いているような・・・ そう、いうなれば最早“冬山”さんと化している。


「ええええーーーーー 嘘でしょぉ・・・」


どこまで沈んでいるのだろうか。

後半の声はソファの布に吸収されてくぐもって聞こえる。


確かに、ダンディな男と言えばある程度の年齢もいってくるだろう。

齢を重ねた男性にとって、どうしても回避できない問題であるのも理解できる。

ただ、秋山のような『女の子ダイスキー』『モテたーい』『俺イイ男―』を主軸とした男には

死活問題であることもまた、理解の範疇である。


もうどうしろっていうんだよぉぉ、と沈む秋山に

なまえは溜息をついて再度向き直る。


「根本的に食事療法とか、ジム行くとか、ちゃんと体を洗うとか・・・」

「体は洗ってるってば!」


ねぇ、なまえちゃぁぁん! と泣きついてくる秋山は、意外と面白い。

いざというとき頼れる男とは知っているが

それでもこういう弱い一面はぐっとくる。

彼の遊びや心の動向を気にしなくて済むのも

それ以上に秋山がなまえを愛していると伝えてくれるからこそだ。


だからこそ、ここは心を鬼にしなければならない。

せっかくのチャンス。

いつ言おうか、言ったら傷つくだろうかとタイミングを計っていたところだ。

やはり勝てない。加齢臭という名の強大な敵に。


「・・・一輝くん、とか。」


ぼそっと、勇気をもってなまえは切り出してみる。

ぴくんと秋山の前髪が揺れた。


「一輝くんとかなら、いい対策知ってるんじゃない? 女性相手の仕事だし、年齢も・・「それだ!!」」


言い終わらない内に秋山の目が爛々と輝く。

ホストなら女性との接近戦の機会は多いだろうし、年齢も秋山とそう変わらない。

何かしら、特にそういった技術に長けている可能性は

他の誰に相談するより高いと考えられる。



翌日、花に韓来の焼肉弁当を差し入れようと天下一通りを横切るなまえが

鼻歌交じりにスターダストへ消えて行く秋山を目撃したことは

なまえだけの秘密である。






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