佐川×焼き鳥という可能性



鶏皮を冷でちびちびとやって

少し焦げた獅子唐をかじって、熱燗に移行しようかと思った時に彼が来た。



「色気ねぇな、相変わらずこんなトコで呑んで。」



現れるなり非難を浴びせながら、店主に熱燗を頼む。

朝晩の冷え込みが激しくなった今日びでは、屋台はやおら賑わいを見せる。



「うるさい。勝手でしょ。」



入社5年目に自分への慰労とご褒美に購入したスーツをクリーニングに出さなければ。

なまえはここ最近、金曜日は必ずこの屋台へ通っている。

別になんてことはない、よくあるガード下の薄汚い屋台。

地元の駅へは乗り換えいらずで帰れるとはいえ、わざわざここを選ぶ理由を

佐川に求めるのを認めたくはない。



「ん。」



裏があるのかないのかわからない、いつものにやけた顔で佐川がお猪口を差し出す。

同時に提供された熱燗に徳利から日本酒を注ぎ、なまえもそれに乾杯した。



「恋人とデートとかねぇのかよ。せっかくの連休前だぜ。」

「恋人が居たって一人で呑みたい時くらいあるのよ。」



長年使われてきたのだろう皿にささみと腿が置かれて差し出される。

湯気の立つそれに塩を振って、日本酒の名残が残る喉で飲み込んだ。

適当に、と頼んだにも関わらず佐川の前には砂肝とハツが置かれている。

日本酒には赤肉を好むなまえには理解に苦しむが

佐川はホルモンだとか、比較的濃厚な味付けを好む傾向にある。

おおよそ相性は良くないに違いないとなまえは再度確信する。



「相手もねぇくせに粋がっちゃって。可愛くないねェ。」



またちびちびと熱燗を注ぎながら、佐川がにやにやと笑っている。

反論するのも馬鹿馬鹿しくて、なまえも無言で熱燗をお猪口に注いだ。

酒には強いなまえだが、こうもハイペースで呑むと顔が赤くなる。



「お前にはアレだな、同世代より年上の男の方が合ってる。」



齧りかけのハツを、肘をついた指先で振り回しながら問うてもないのに言う佐川の言う通りだと認めるのが辛い。

何人かの同世代の男と付き合ったけれど、どれもいまいちピンと来なくて

この歳まで仕事に追われてきたなまえはこのくたびれたスーツの男に惚れている。



「あんたにわかるわけないでしょ。」

「いいや、わかるね。俺に惚れてるもん。」



軟骨をタレで食べるのが当たり前だというようにそれを口に運んで

同じように当たり前だという顔でさらりと言ってのける。

ここ数ヶ月、自問自答し続けてやっと出た答えなのに

それが佐川の見解と同じだとは、認めるのが尚辛い。



「そんなわけないでしょ。」

「またぁ。可愛げがない女は損するよー?」



串に刺さった3切目のささみを咀嚼しながら、佐川の顔を見ないようお猪口を口につける。

上から目線で掴みどころがなく、こんなにも何を考えているかわからない男のどこが良かったのかわからないが

残念ながらなまえは週末にこの屋台へ足を運んでしまう。



「俺は構わないよ?」



ホレ、と差し出されたぼんじりにはタレがかかっている。

なんで塩じゃないのよと少しイラッとしながら

やっぱり相性は良くないに違いないと思いつつ串を受け取る。



「馬鹿じゃないの。」



じんわりと噴き出してくる肉汁とタレが絡むのを口内で感じながら

あぁこの屋台のタレなら悪くないなと少し思ってしまうけれど

それを認めるのは可能な限りずっと先延ばしにしようと心の中で誓う。





だってそうしたらきっとあなたは足そうに去って行くから






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