快餐車はかくりき




金曜日の夜にだらだらとなまえの家にやって来ては

彼女の見繕った適当な映画を観ながらスナック菓子を食べる習慣は

時に非生産的過ぎてくだらないと思う時もあるが

まぁ心地の良いものだと思い続けてもう長いことになる。



ネット配信の映画は、先週はホラーだったので今週はアクション。

スタントを使わないことで有名なあの人は、いつか死んでしまうんじゃないかと誰もが思っていると思うけど

きっとあの世界でなければ生きていけない人なのだ。という持論を展開しながら

なまえが残り少なくなった缶ビールを傾けた。



「そういえば年末仕事忙しいの?」



画面を見つめたまま、なまえがぽつりと問う。

曖昧に頷くと、どこの業界も一緒なのねと実りのない返答が返って来た。

きっと質問の意味は馬場の予定ではなく、冴島の動向を探るためだということは

言わないまでもバレている。



「冴島さんトコの忘年会、行かないの。」



なまえの意中の人の名前を口に出すと、横顔の睫がぴくっと動いた。

簡易なプラスチックのクリップで留められた前髪から繋がるなだらかな額の曲線を辿ると

柔らかそうな唇が缶ビールの飲み口を弄っていた。



「行かないよ、呼ばれてないもん。」



堅気が呼ばれるわけないじゃんと呟いたなまえが若干気落ちしているのが見て取れた。

表立った仕事でたまに組と関わるなまえが、冴島に惹かれていることは

傍から見てすぐピンと来た。

出所してから何かと世話になっている冴島の事務所で何度か顔を合わせる内に

なんとなく馬が合って、なんとなくつるむようになった。

まさかいい歳をして恋愛感情を排除した異性の友人ができるとは思いもしなかったけれど

これはこれで居心地の良い関係だなと、きっとお互いが思っている。



「行きたいって言ったらたぶん喜ぶと思うよ。」



なまえも心を許しているのか、冴島が好きだということを馬場に隠したりはしない。

外ではあんなにひた隠しにしている癖に、家の中でこうして寛ぐ時は

なんだかんだと彼の話をしている。

少し考える様に長い睫が伏せて、ううんと首を横に振った。

映画の中のヒーローは、さっき窮地を脱したばかりなのにまたピンチに陥っている。



「良いのかなぁ。冴島さん、アレで結構モテるんだけど。」

「嘘。」



振り向いたなまえの口元に、つまみの欠片がついている。

取ってやろうかとも思ったけど、なんだかそれは自分たちの距離感ではないような気がして

馬場はそっと自分の口元を指さして教えてやった。



「組長サンだもん、そりゃあ狙ってる女も多いよ。」

「そっかぁー…」



ぶすぅ、と口を尖らせたなまえがまた画面を見つめた。

馬場の見立てでは、恐らく冴島もなまえに対して似た様な気持ちを抱いているのだと思う。

ただ年齢差と、住む世界があまりにも違うということ、それと何より

奥手同士の恋愛は稀に時間の流れに負けてしまう、ということが

いい歳をした男女の清らかな恋愛を阻害している。



カシャ、とデフォルトのカメラのシャッター音がして

エンドロールを意味なく見つめていたなまえが再び振り向く。

悪戯に笑う馬場の携帯の画面に、悶々と悩むなまえの横顔が保存された。



「やめてよ。」

「冴島さんに送ろうかな。」

「やくざめ。」

「それ、悪口でもなんでもないからね。」



この写真が、少しは起爆剤になるだろうか。

受けた恩を返すにはまだまだ至らないけれど、これで少しは物事が進展すれば良い。

ただ次の週末はどのように過ごしたら良いのだろうかと少し寂しくなって

送信ボタンを押せないで居る。







つまそういうことだ


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