froid




今日は溜息をつく回数がやたら多い。

別に嫌なことがあったわけじゃないけど、なんとなく身体が重い気がする。

口の中もなんだかもったりして食欲がないし、化粧乗りもいまいち。

首回りがぼぉっとするほど暑いのに指先が痛いくらい冷たい。

それに何となく関節がキシキシ痛む気がする。



「風邪じゃねぇか。」



帰宅するなり体温計を押し付けられ、アラームが鳴るとなまえが確認する前に取りあげられた。

スーツのジャケットを脱いだら寒かったのでブランケットを肩から羽織る。

峯と同棲して良かったと思うことは、典型的A型の彼の所為で

体温計や風邪薬がどこにあるかすぐわかること。



「えぇー…ちょっと勘弁。」



今週はまだ2つもプレゼンが残っている。

上手くいけばかなり大きなプロジェクトになるし、部下も頑張ってくれているので

どうしても今体調を崩すわけにはいかない。



「なら早く治せ。」



立ち上がるのが億劫でソファでダラダラしていると、風邪薬の箱が飛んできた。

峯が水の入ったグラスと、冷却ジェルシートをなまえに手渡す。

なまえが風邪薬を飲んだのを見届けてからグラスをシンクに置くと

冷却ジェルシートのフィルムの端を弄っているなまえの隣に座った。



「何してんだ。」



風邪薬は、まぁ良い。

だけど冷却ジェルシートはちょっと躊躇する。

さすがに恋人に、そんな情けない姿を見せるなんてちょっとなぁ…と思ってしまう。

なかなか決心がつかず、爪先で弄っていた冷却ジェルシートを取りあげた峯が

ぺちんと割合勢い良くなまえの額に貼りつけた。



「痛っ 冷たっ」

「そういうモンだ。」



不要になった接着面の保護フィルムをゴミ箱に捨てる峯の指先を見届ける。

こんな情けない姿を見せていたら、いつかあんな風に捨てられちゃったりしてとか

極端にネガティブに走る思考からも発熱していることを自覚した。



「早く寝ろ。」



視線をなまえに向けることもなく、手にしていたいくつかの模造紙に向ける。

病床の恋人になんて冷たい態度なのだろうと思う人も居るだろうが

他人にどうこうしろと指示するようになったことが既に進歩なのだ。



「んー…」



何となく人恋しくて、隣に座る峯の太腿辺りに手を伸ばす。

するすると手を伸ばして、組んだ足と膝についた肘の間に無理やり入り込んだ。

クリーニングの独特な匂いのするスーツの下には固い大腿筋があった。

強制的に膝枕状態に持ち込んで、怒られるかと思ったけれど

相変わらず模造紙を見遣ったまま峯の指が膝の上のなまえの髪を梳いた。



「…怒んないの。」

「怒られてぇのか。」



ううん、と答えたけれど返事はなかった。




Take your sweet time.


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