give a break



ソファで仕事をしている時は話しかけてもいいけれど

ダイニングで仕事をしている時は絶対に話しかけないでという言いつけを

馬場は未だにキチンと守っている。

自分がコーヒーを飲むついでに淹れておいてくれたマグカップから

湯気が消えたのはもうずっと前のような気がする。

何度も腕まくりをしたせいで伸びきった薄手のニットの袖をぐっと伸ばす。

キーボードの上に置きっ放していた指が随分と冷えていて

唇に押し当てると、ふぅと息を吹き付けて温めた。



「…寝た?」



部屋に時計を置くことは止めた。

必要なら携帯も腕時計もあるので、わざわざ壁にまで貼り付けて

自分がどれだけ不規則な生活をしているか知らしめる必要はないように思ったから。

数時間前に寝室へ行った馬場へ声をかける。

もう寝ているようだった、街灯の明かりの透けるベッドからもぞもぞと衣擦れの音がして

起きてますよと掠れた馬場の声がした。



「寝てたの。起こしてゴメン。」

「…終わったんですか。」



眠たそうに充血した目を擦って上半身を起こす。

なまえの趣味に合わせて用意した、綿のたくさんはいった高さのある枕に

背中までを預けて手を伸ばした。

当たり前のように開かれた腕の中に、なまえは何も言わず抱き締められる。



「終わっ…てない。」



声を出さずに馬場が笑った。

そうですか、と優しく囁く声が耳に届いた。

お疲れ様です、とも。



「少し横になりませんか。」



馬場の鎖骨辺りに頬を埋めていたのに、じりじりと重力に負けて

胸の辺りまで下がってしまった顔を上げる。

細身に見えるのに意外と筋肉質なシャツの下は、暖かくて硬かった。



「ココ、凝ってますね。」



上半身を枕に預けた馬場と向かい合うようにして寄りかかるなまえのうなじを長い指で強くつまむ。

痛いけれど気持ち良い。



「眼、使い過ぎです。なまえさん姿勢悪いし。」



馬場の顔は逆光になっていて見えないけれど、たぶん苦笑いを浮かべているのだろう。

そのまま指を上にスライドさせて後頭部の頭蓋骨の付け根を押した。

固くなり過ぎて、もはや感覚を感じない自分にも苦笑いした。



「足もマッサージしてあげたいけど、なまえさん怒るでしょう。」

「あれは嫌。痛いもの。」



耳を揉まれながら馬場の胸元に埋めていた身体を起こす。

腰の上に馬乗りになって、肩に手を置くと

そのままずるずると馬場をベッドの中に押し込んだ。

額にキスをして、口紅もグロスも塗っていない唇を鼻筋に滑らせる。

薄い上唇を通り過ぎて、柔らかい下唇を食んだ。



マンションに面した通りの街灯の、蛍光灯然とした白い光が彼の輪郭を映すと

その目が優し気に細められていた。

少し嬉しくなってなまえはもう一度控えめに下唇を咥えた。



「…きれいな髪ですね。」



見下ろすように俯くなまえの、重力に抗わない髪を耳に掛ける。

それでもまだサラサラと滑り落ちてしまう前髪が馬場の顔にかかっている。

なまえは前髪を後頭部へと掻き上げると、返事をせずにまたキスをした。



「きれいな目ですね。」



唇の形も、目の色も、眉の形も頬の柔らかさも、全部。

きれいだと褒める馬場が面白くて恥ずかしくて

思わずふふっと笑みを漏らしてしまう。



首元にすっぽりと頭を収めると、頸動脈の波打つ音が耳に響いて

なまえはうとうとと目を閉じた。





Never walk away from you no matter what.





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