加齢臭 ep.冴島の場合
「お帰りなさい、今日も疲れたでしょう。」
お風呂湧いてるからねーと声をかけながら、なまえがジャケットを受け取る。
一緒に暮らし始めて半年。
なまえは良妻と世界中に公言しても恥じない、本当に献身的な女だ。
今まで女性に縁のなかった自分がこんなに良い女を手に入れるなんて。
冴島は帰宅する度、そして生活の節々でささやかな幸せをかみしめていた。
受け取ったジャケットを丁寧にハンガーにかけるなまえ。
きっとこの後にはいつものように、
世界一美味しい晩御飯のメニューが伝えられることだろう。
ブーツを脱いでリビングに続く廊下を歩くと、なまえがそっと問いかけた。
「ねぇ、今日、汗かいてきたの?」
今日はうららかな秋の日。
もうすぐ気が早いテレビ局や製菓業界がクリスマスを高らかに謳う、
むしろ肌寒いくらいの日。
それに今日は一日事務仕事だったし、汗は一滴もかいていないはずだ。
「いや、かいてへんと思うで・・・」
そうかぁ、と小さく呟くなまえ。
なんや、なんなんや。
「じゃ、加齢臭ってやつかな?」
ふふっと笑うなまえ。
はたから見れば、疲れた旦那を労う若い嫁の天使のような笑顔。
今の冴島には、『お父さんの洗濯物と一緒に洗わないで!』という年頃の娘のように映る。
「か、加齢臭・・・?」
「ふふッ、大型二輪持ち上げる大河さんも、寄る年波には―――」
なまえが振り返ると、そこには最近スマートフォン相手に四苦八苦している冴島の姿が。
彼の立派な指に、ス●ィーブ・ジョ●ズの才能は追いつかなかったようだ。
「おぉ、兄弟。 なんやその、お前、あの、最近ちょっと、気になることとか・・・」
その後、男同士の深刻な悩み相談は陽が昇るまで続いたとか。。
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