バッドンド、その後



規則正しい寝息と同期して動く睫が意外と長いことを、最近知った。

いつも通り真一文字に結ばれた唇は、眠りの中にあっても同様で

顔にかかる前髪がくすぐったくはないだろうかと、そっと退かしてやる。



「起こした…?」



髪を払った方ではない手は、大吾の大きな手で握られ続けて何時間になるだろうか。

指先がぴくっと小さく動いたと思ったら、閉じられていたはずの瞼が薄らと開いた。



「寝ていない。」



なまえのベッドを完全に占領して、眠りの世界に居た癖に何を強がることがあるのだろう。

横たわる大吾の隣で何時間も座って手を握り続けたなまえが優しい笑顔を向けると

怒っているのか真顔なのか区別のつかない顔で、また瞼が閉じられていく。

少しでも安らげるようにと、指先だけで指先をトントンとリズミカルに触ってやる。

大きな損失のあった時―――とりわけ誰かが死んだりしてしまった時、

彼はこうしてなまえの部屋でささやかな安息を得る。



「お疲れ様。」



この時期には珍しい、静かな小雨が降っている。

BGMに小さくかけていた、ギターが美しい曲が部屋の空気を揺らす。

時計のないなまえの部屋では今が朝なのか夜なのか、何時なのかも定かではない。



「…寝ないのか。」



平均よりも随分体格のいい男が、シングルサイズのベッドを占領しておいて何を言うのか。

なまえはくすっと笑ってまた手を握り返してやる。



「後でね。」



そうかと答えたのか、それとも寝息だったのか。

BGMの洋楽は哀愁たっぷり漂う女性が、ゆったりとギターを爪弾いている。

何かの映画で使われていたことがあったような気もする。

歌詞に耳を傾けると、若さや愛の素晴らしさを語っているのに

そのメランコリックな歌声からは、郷愁ばかりが感じられる。



Younger than springtime






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