続きのないの中











仕事帰りにスーパーによって、週の半分を凌げるくらいの食材を買いこんだ。

一日の労働で疲れた肩にどっしりとビニール袋の重みがかかる。

自動ドアを潜り抜けて少し歩いた頃になって、やたら寒いことに気が付いた。

こんな日に限って、雨が降っている。



あ、また買い忘れた。バター。



今日の仕事はつまらなかった。

長いだけの、謎のミーティングと突発且つ面倒な案件がいくつか。

必死になって終わらせたものだから、昼食を摂り損ねてしまった。

気が付けば机の上はぐちゃぐちゃ、電話してばかりだったから外していたピアスはどこかへ行った。

両手のビニール袋を持ち直して、なまえはとぼとぼと家路に着いた。



「なまえちゃん。」



呼び止められて振り返る、スーパーの曲がり角を折れると品田が立っていた。

いつも通りのへらへら顔で、やっぱりへらへら手を振っている。



「どうしたの、出かけるの?」



片手をポケットにつっこんだまま品田は近寄ると、ううんと首を横に振った。

何も言わずにビニール袋をひとつ奪い取ると、コレ重いねと呟いた。



「迎えに行こうと思って。雨だし。」



退社する時にスーパーに寄ってから帰宅すると短いメッセージを送った。

既読がついただけで返事のなかったやりとりは、そのまま放置している。

品田は軽々と、なまえの左肩の重圧を消し去ってくれた。



「傘持ってないじゃん。」



小雨ではあるけれど濡れずには帰宅できない天候の中、品田は丸腰でやって来た。

天気予報では晴れだった、もちろんなまえも傘など持っていない。



「そうなんだよねぇ。」



ポケットから出した指で頬を掻いて品田は笑った。

忘れたのか、街のどこかで失くしたのかは知らない。

なまえは適当に相槌を打って受け流した。



「今日ご飯何作る?」

「うーん、未定。」



スーパーで買い物をしたばかりなのに決まっていない献立に品田が不思議そうな目線を投げる。

何も作れないわけじゃないけど、作りたいと思っていたものは今日作れない。



「バター買い忘れたの。」



近頃はどこへ行っても品薄で、売ってなかったりなんてこともざらにある。

何度目かの買い忘れを品田は指摘することなく、そっかぁと呟いて先に角を曲がった。



「バター、作れるよ。確か。」

「嘘、どうやって。」



品田に続いてなまえも角を曲がる。

家まではあと少しだ。

多少職場から遠かろうと、遅くまで営業しているスーパーのある街に越してきたことは

ちょっと正解だったと思っている。



「牛乳に何か入れて、すっげぇ振るの。」



品田が片手で、何かを振り回す仕草をした。

一見して面倒臭そうだなぁと思えたし、牛乳に入れる何かが果たして家にあるかはわからなかった。



「辰雄が振ってよ。」

「任せろ。」



うろ覚えな知識だけど、確か自家製バターを作るのには時間がかかったはず。

週の中日の夕食はパパッと済ませてしまいたかったけれど

品田が必死に牛乳を振るのを想像して、なまえは小さく笑った。













気がする がする







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