プライドが高いというとなんだか聞こえが悪いような気がするけれど

品田は意外とプライドが高い男だ。

例えばなまえの家で夕食を摂ったりすることはあっても、絶対に金の無心なんかはしないような。

どこそこへ行きたいと水を向けた時等、ポケットの中の小銭では交通費すら捻出できず

誘ったのはこちらだからそれくらい出すよと提案したのを跳ね除けた。

走っていくから大丈夫だと言い切られ、目的地の駅で30分程待っていると

本当に息を切らしてやって来るくらいには、プライドの高い男なのだ。

だから今回、困って居る古い友人を助けに行ってしまったのも彼らしいと思ったし

危険を顧みずに東京へ発つことも、なまえに一言の伝言すらなかったのも

きっと品田らしいといえば品田らしいことなのだ。



元々料理はそんなに好きではなかったけれど、あんまり美味しそうに食べてくれるものだから

ついついいつも、頑張って作ってしまう。

一人ではとても食べきれないような量を作って、余ったから食べてよとぶっきらぼうに言うのが

不器用ななまえのせめても愛情表現だった。

何を食べても美味しいと褒めてくれる彼の好物のカレーは日持ちするので重宝したけれど

昨日作ったカレーは、そろそろ駄目になってしまう。

その前に作ったものも半分以上残して捨てた。

使い切れない食材が冷蔵庫の中でゆっくり萎びていくのをゴミ箱に移し

また補充しては萎びていくのを見つめる日々が続いた。

就寝時以外は開けたままにしている玄関の扉が細く開いて、へらへら現れた品田は

少しだけやつれたようにも見えた。



「お帰り。」

「ただいま。」



東京で何があったのか、なまえは問わなかった。

品田も何も言わなかった。

情熱的な抱きあいもなければ、キスのひとつもなかった。

ただ淡々と、いつもの仕事帰りのように品田がリビングへ入って来るのを

なまえも淡々と受け入れた。



「生きてた。」

「生きてたね。」



品田は何も語らなかったけれど、風の噂でなんとなくどんなことに巻きこまれたのか知っていた。

心配したのは一瞬で、まぁどうせいつか帰ってくるだろうと思いこむように努めたけれど

一週間、二週間と経つ内に不安が胸を押し潰しそうになっていた。

生存の確認も出来ない、同じ日本にいるはずなのに

どこにいて何をしているのか分からない。

そんな時はたくさん料理を作ってごまかした。

そして何度も、たくさん作った料理を棄てた。



「心配した?」



少しやつれたとはいえ相変わらず健康的な身体に安堵しながら

何を言えば良いのか分かりかねて無言ななまえの目線を正面から受け止めて品田が問う。

頭を掻きながら困ったように笑う、憎めない笑顔が懐かしい。



「別に。」



眉をちょっと上げて言ってみせると、やっとなまえの唇に笑みが戻った。

長いこと笑ってなんていなかったものだから、正しく笑顔を作れているか疑問だった。

本来ならここで抱き着いて、寂しかったとか泣き言のひとつでも言えれば良いのだけれど

いい歳をした女は照れ隠しのように髪を梳いた手を首筋に当てて立ち上がると

明日の朝には捨ててしまおうと思っていたカレーを手に取った。



「死んだら連絡来ると思ったから。」

「酷いなぁ。」



キッチンへ移動したなまえに続いて、ジャケットを脱いだ品田がついてくる。

触れあうでもない程良い距離感が心地良い。

遠くから少しだけ感じた品田の匂いに酷くノスタルジーな気分になったのも束の間

すぐにカレーの匂いでかき消された。



「やっぱ欲しかった?生存報告。」

「まぁね。」



カレーを混ぜるなまえの手元が少し暗くなると、品田がゆっくりと背後に立って覗きこんでいるのが解った。

やっぱり触れるでもない距離だったけど、いつもより少し近くなった距離に

お互いちょっとは寂しかったんだなと苦笑する。



「いつもカレーじゃ、飽きるのよ。」



顔を見上げないまま呟いた言葉が、もう少し可愛い言葉であったならと思う。

もう少し素直な女であったなら、手のかかる女であったなら。

それでもうなじに落とされたキスと、左耳に聞こえた小さなごめんに

これで良かったのだと報われた気がした。









さしも知じな







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