rilevanza




















交遊関係の定義は幅広く、寝れば恋人なのかと言われれば決してそういう訳でもない。

たぶん愛し合ってるとか心が通じ合ってるとか、そういうのが一応定義なのだろうけど

形のないものを無条件に信じて生きられる程、なまえも峯も若くはないのだ。

仕事絡みで互いを知り、なんとなく寝てなんとなく懇意になった。

行きずりの男としか寝ないと決めた今年の頭、早くもその抱負は打ち砕かれ

結局また仕事絡みで峯と顔を合わせ、なんとなく寝る。



「よし、ひとつ終わった。」

「ん。」



東城会という一大組織をクライアントに持ってから、他の一般のクライアントは切ってしまったので

仕事量は随分減ったけれど、多忙になる時は本当に多忙になる。

繁忙期なんかない、いつ案件が入ってくるかもわからない仕事だけれど

目の飛び出るような額を受け取っている以上、やれと言われたことはやらねばならない。

なまえは事務所に持ち帰った仕事の山を片っ端から片付けながら

無表情のまま物凄いスピードでキーボードと電卓を叩いていた。



「取って欲しい。」

「…。」



新宿の繁華街から少し離れたところにひっそりと建つ雑居ビルの3階のオフィスは

がらんとしていて装飾品のひとつもないけれど

コンセントの都合、なまえの作業デスクから複合コピー機は随分離れている。

今は、立ちあがって出力したコピー用紙を取りに行く時間すら惜しい。

会長との打ち合わせの後、なまえをオフィスまで車で送った峯は今日は店じまいなのか

来客用の珈琲を勝手に淹れて、ソファで何やらタブレット端末を弄っていた。



「ほらよ。」

「ありがと。」



相変わらず指を忙しなく動かすなまえが、峯の顔も見ず礼を言う。

こんなパシリのような扱いは物凄く不本意なのだろうけれど、事態は一刻を争うし

全ては東城会の為、引いては峯の大好きな六代目の為なのだ。

峯の手の中のコピー用紙を左手で受け取って、広いデスクの左側に置くと

なまえの目線はちらちらとコピー用紙と液晶とを往復した。



「冷てぇ。」

「ん、そうかな。」



コーヒーカップを片手に持ったまま峯がなまえのデスクの隣に立っていた。

季節は春、ともすると夏の方が近いような昨今の暖かさは夜も過ごしやすいというのに

なまえの指先は氷の様にいつも冷たい。



「冷え性なのよ、しょうがない。」



それこそ学生の時分から冷え性とは長い付き合いになる。

合併症を引き起こすだのなんだの騒がれているけれど、指先が冷たいくらいで別に生きていくのに支障はないし

日本国民の女性の7割は冷え性だというのだから、別に騒ぐほどのものじゃない。

何度も往復させた目線が液晶の上でぴたりと止まり、やっとなまえは冷めた珈琲に手を伸ばすと

峯がソファへ戻らずに作業デスクに腰かけて手元を見つめているのに気づいた。



「心が暖かいのよ。」



峯の手の中の珈琲はまだ辛うじて湯気が立っている。

お代わりを淹れてきてと頼んだら応じてくれるだろうかと考えながら、見下ろす彼の顔を見つめ返した。



「その理論で行くと、俺の手は冷たいことになる。」



オフィスにやっとキーボードを弾くカチカチとうるさい音が止まって、遠くの大通りに車の走る音が静かに聞こえた。

普段冗談など言わない峯の眉は少し上がっていて、なまえは珈琲を持った右手をそのままに

頬杖をついていた左手を、目の前で不躾に腰掛ける彼の手に伸ばした。



「暖かいじゃない。」

「おかしい。」



筋肉量だとか新陳代謝だとか、そもそもついさっきまで温かい珈琲を持っていたりして

指先の冷たさと人格の良い悪いに何の関係もないことは明白なのに。

差し出された峯の指先の上に置いたなまえの指を、彼は軽く握ると

いつも怒ったような無表情をほんの少し和らげたような気がした。



「とっとと終わらせろ、時間がねぇんだ。」

「わかってるわよ、せっかち。」



ふと立ちあがって発破を掛けてくる峯の背中に吐き捨てる。

下りて来た前髪を、気合を入れるように掻き上げて

続けてもっと悪態をつかなかったのは

彼がなまえの空になったコーヒーカップを持って行ったから。









垣間見







prev next









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -