プレミ
















23時、外はとっぷり暮れて日中よりは幾らか静かな街の風が

煙草の換気用に開け放した小さな窓から流れ込んでくる。

なまえはいつものように、会社で終わり切らなかった仕事を自分のPCで片付けながら

蛍光灯の下でPC眼鏡をかけてキーボードを叩いていた。



「まだやってんのか。」



声を掛けられて顔を上げれば、風呂上がりの桐生が上半身に何も身に着けないまま

タオルで髪をごしごしと拭きながら現れた。

なまえに声をかけながら、桐生はキッチンに入って行くと

牛乳をパックのまま直に喉へ流しこんでいた。



「んー…。」



付き合ってしばらくになる桐生は、なんとなく流れでなまえの家で過ごすことが多くなり

お互い一応マンションを借りてはいるけれど、なまえのマンションの方が広いし立地も良いので

こっちに引っ越せば良いのに、と思いながら切り出せないでいる。



「疲れたぁ。」



結局今日は一日働き詰めだ。

いつものことながら、やっぱり疲れた肩を揉みながら

しかめ面のなまえに、桐生は同情を含んだような笑いを浮かべた。



「いつになったら終わるの、これ。」

「さぁな。」



仕事が大好き人間というわけではないけれど、恋人か仕事かを選べと言われたら

間違いなく仕事を取るという程には、なまえは真面目な人間だ。

それでも、好きというだけでは目の前の企画書は勝手に出来上がっていく訳もなく

煮詰まった頭をぐるりと回して、頬杖をついて深い溜息を吐いた。

まだ結構残っていたはずの牛乳パックを飲み干した桐生の姿を、PC眼鏡越しに見るともなく見つめながら

あぁ、綺麗な身体だなと思う。



「どうした。」



視線に気づいた桐生が訝し気に問うのを、適当な返事で受け流す。


くっきり出た腹筋がとても綺麗。

企画書の構成が他社に比べて少しインパクトに欠けるかも。

分厚い胸筋がとてもセクシー。

明日もう一度事例を調べよう、3年前の案件はどこへやったっけ。


不埒な感想と真面目な考察の入り混じる脳味噌を忙しなく動かしながら

頬杖をついたまま、目線は相変わらず桐生の少し汗ばんだ上体から動かせなかった。

空になった牛乳パックをゴミ箱に放り投げた桐生が、少し揶揄うような顔で笑う。



「触りてぇのか。」



意地悪な少年のような口元で問いかけられて、ふと我に返る。

頬杖をついたままなまえも目元をにやりと曲げると、真面目な考察は飛んで行った。



「やらしい。」



少し上目遣いにして、鼻で笑ったなまえが応える。

なんとなくキーボードの上に置いたままだった右手を、テーブルについた左肘に添えて

かけたままだったPC眼鏡をずらして覗き込んだ。



「そうか、違うな。」



ゆっくりと桐生がキッチンからリビングへ、なまえの座る小さなスツールへ近寄る。

嗅ぎ慣れた気に入りの石鹸の匂いの奥深くに、彼の匂いがした。

PCデスクの代わりにしている背の高いカウンターに桐生が両手をつくと

視界が全く彼の裸体で埋まってしまう。



「触られてぇのか。」



低い声で囁かれ、照れたような笑いを悟られたくなくて

一拍置いて尚頬杖をついたまま顔を上げると、相変わらず意地悪そうな顔の桐生がいた。

どう攻めるのが得策だろうかと逡巡し、ゆっくりとPC眼鏡を外したなまえが取った行動は

スツールに座ったまま両手を大きく広げて、甘えたようなふざけたような声をあげることだった。



「しょうがねぇな。」



にゃーんとか何とか言った気がする。

とにかく声を発した次の瞬間には、呆れたような顔の桐生に抱き締められた。

頬に触れる、張った筋肉に沿う男の皮膚の感触がザラザラと心地良く

風呂上がりで少し湿った胸板の奥から静かに聞こえる鼓動の音が愛しい。

好いた男の腕の中を、一日頑張ったご褒美にと堪能していると

ふいに抱き上げられ、首筋に何度もキスを落とされる。

漂う空気に情事の気配が濃くなったことに気付き、なまえは桐生の腕の中でもがいた。



「ちょ、駄目、私もシャワー…」

「遅ぇよ。」



両手を押し付けてもびくともしない桐生の腕力に抗えないまま、何度もなまえは入浴を強請る。

そのすべては結局、無意味どころかむしろ潤滑剤でしかあり得ないということを

いつもなまえは後々になって思い出す。








れた理由を数え疲れて








prev next









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -