an ornaMental




高いヒールを履いてもまだ首を伸ばして見上げる程なのに

きゃっきゃと会話をはずませるなまえの目は輝いている。



「じゃ、そろそろ失礼します。ぜひご飯ご一緒しましょうね。」

「あぁ、わかった。今度連絡する。」



余所行きの声で絶対ですよ、なんて言いながらなまえが廊下をこちらへ渡ってくる。

本人はクールに決めているつもりかも知れないが、浮かれているのはバレバレだ。

次の打ち合わせに向かうべく大吾と合流するなまえの口元は、完全に緩んでいる。



「…楽しそうだな。」

「はぁー…いつ見てもいい男だわぁ…。」



パンツスーツにピンヒールでビシッと決めたなまえの見た目からは

想像できないほど腑抜けたゆるゆるの声。

なまえが桐生に逆上せているのは、前々から知っていた。

一目惚れしたとか何とか言いながら、打ち合わせ中でも執務室で大吾と二人きりの際は

眉毛がかっこいいとか声が素敵とかを会話の端々に折り込んでくる。



「今日も癒されたなぁ…いやぁ、眼福眼福。」



にやにや笑いながら、なまえはとても幸せそうにしている。

学生時代からの付き合いになる大吾となまえは、社会人になってもそれなりにフランクだ。

数年の会社勤めを経て独立を果たしたなまえの業務内容は、通常の民間企業ではとても処理できないこちらの世界の案件を担当している。

大吾も大吾で、本部で見せることのないプライベートな表情をなまえには見せている。



「仕事で来てるんじゃねぇのかよ。」

「仕事3割、趣味7割ッ!」



不真面目なことをクライアントにしゃあしゃあと抜かすなまえを小突きたかったが

幹部のひとりとすれ違ってしまったので無表情を繕う。

なまえもふっと真顔になって、唐突に前回の依頼案件の報告を始める。



「―――加えて今後も一層対策の必要性が…。あぁ、今日もホントカッコよかったぁ。」



執務室へ到着するや否や、また腑抜けた声が漏れる。



「飯行くんだろ、良かったな。」



大きなマホガニーのデスクに置かれた書類を退かしてスペースを作る。

即座になまえが書類を取り出し、並べて署名欄を指示する。



「へ?行くわけないじゃん。」



綺麗にネイルが施された爪先で模造紙を捲りながら、なまえがさも当たり前のほうに返す。

3枚目に署名を終えた大吾がなまえを見上げた。



「なんでだよ、めちゃくちゃ嬉しそうだったじゃねぇか。」

「いやいや、あんないい男と食事とか無理。緊張する。」



桐生さんは観賞用っていうか、アイドル的な感じっていうか…

署名されたいくつかの用紙をファイルに挟んで鞄に仕舞いながらなまえが応える。

どうせ向こうも社交辞令よと言いながらパチンとバッグの金具を留めると

先ほど入ってきたばかりの出口へ向かった。



「堂島くんとだったら行ってもいいよ。」

「どういう意味だよ、それ。」



歯を見せて笑うなまえがからかうように投げかける。

桐生の前で見せる、大人びた笑顔とは違うそれが高校時代を彷彿とさせてドキッとする。



「高校の時私のこと好きだったんでしょ。同窓会で聞いたよ。」



口の軽い元クラスメイトの顔がいくつか浮かんだ。

たびたび同窓会が開催されているのは知っていたが、参加したことはもちろんなかった。



「…誰だよ、バラしたの。」



溜息をつきながら皺を寄せた眉間に手を当てて、赤くなっているであろう顔を隠す。

悪戯っぽく笑うなまえがしてやったりとばかりににやけている。



「じゃ、ご飯。誘ってね。」



またね、となまえが扉をくぐって行って部屋は一層静まり返る。

色々と失礼な発言や、思うところは多々あるけれど

どこの店にしようかとすでに考え始めている自分が少し気恥ずかしい。









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