Perte de temps














付き合って長くなるが、立華はあまりなまえの家に来たことはない。

人のテリトリーが落ち着かないのは似たような性分だったけれど、立華の性分の方が

なまえの意地よりずっと強かったようで、結局2つ目の季節を迎える頃には

立華がなまえの家に来ることはなくなった。

物がごちゃごちゃとあるのが酷く嫌なので、なまえの家の家具や家電は必要最低限に留めているけれど

立華の家にはもっと何もなかった。



「泊まって行くのか。」

「どうしよっかな。」



仕事を切りあげるのが遅れて、立華の部屋でしばらく過ごしているとつい日付が変わってしまった。

立華が問うニュアンスは帰れではなくタクシーを呼ぶのか、であるということに気づくまでは

ちょっと悲しくなったりもしていた応答も、慣れたものだ。



「だいぶ暖かくなったね。」



立華の部屋の冷蔵庫にはなまえの家の冷蔵庫のようにほとんど物が入っていない。

たぶん、なまえの家の方がマヨネーズがある分充実していると言っても良いかも知れない。

それでも勝手になまえが入れていく酒を、彼もたまに勝手に呑んでいる。

繁華街に面した大きな窓を全開にすると、都会の夜風の匂いがした。

観音開きの窓枠に肘をついて酒を傾けていると、この家で唯一の椅子に腰掛けた立華が

同じく酒を傾けながら煙草に火を点けた。



「ほら、星の瞬きが聞こえるわ。」



グラスを指で挟んで振り回しながら、演技腐った口調でなまえがお道化ると

立華は呆れたように鼻で笑った。

明るすぎる東京の夜空に、星はひとつだって浮かんでいなかった。



「聞こえねぇよ。」



タイヤがアスファルトを削る音、時折どこかのパチンコ屋の扉が開く音。

酔っ払いの吐瀉物が路上に巻き散らかされる音、キャバクラの客引きの声。

美しいとは言い難い、聞き慣れた音に心底安心する。

屑が生きて屑が死んでいく街でなら、ちっとも魅力的じゃない自分の暮らしも許されるような気がした。



「聞こえないのよ。」



笑いながらなまえが窓枠に身体を預けて酒をちびりと呑むと

立華も側へやって来て酒を口に運んだ。

彼の指に挟んだ煙草を催促して奪い取ると、すんなりと立華はなまえの指に煙草を手渡した。

なまえの銘柄と変わりない重さのタールだけれど、煙の味が違う煙草は

斬新で不味かった。



「酔っぱらってるのか。」



腰程の高さの窓枠に二人して乗っかかりながら見下ろす街は

よくわからないゴミの散乱した、ごちゃごちゃした景色だったけれど

昼間の明るい時間よりは幾分かマシに見えた。

遠くで喧嘩をする怒号が聞こえる、きっと彼等の返り血も

不思議と明日になれば乾いて消えているのだろう。



「馬鹿なのよ。」



ゆっくりと身体を起こして、短くなった煙草を窓の外から放り投げる。

赤い火の粉が散って行くのを最後まで見送らないまま、情事の気配のするキスをした。








所詮死ぬ迄暇






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