灰白色の










大柄な恋人ができたものだから、シングルのベッドでは狭苦しくて仕方なくて

年末のボーナスを使って、思い切って大きなベッドに買い替えた。

そのベッドの上で、品田は時折飛び起きる。



「…大丈夫?」



上半身を起こした品田は全身にびっしょりと汗をかいている。

なまえがまだ眠気の残る瞼を擦りながら背中を触ると、情事の時のような汗と違って

冷たい、嫌な汗がシャツに滲んでいた。



「大丈夫、ごめん。」

「ん、平気。」



付き合い始めた頃、彼に何があったのかを簡単に聞いた。

酒の勢いでいつも通りの明るい品田らしく話してくれた内容は

聞いているだけで嫌気が刺すような、反吐がでそうな人生だった。



「起こしちゃった?」

「ううん、大丈夫。」



不規則な品田の生活と違って、なまえの朝は早いけれど

なまえは自分も身体を起こして品田の背中を摩った。

冷たくなったシャツは、このままだと風邪をひいてしまいそうだった。



「また夢見たの?」

「んー…」



寝相は悪いが寝付きの良い品田は、大概が朝までゆっくり眠っていた。

いびきが煩いこともあったけれど、痘痕も靨なのかそれもそれで愛しいと思えた。

それでもたまにこうして飛び起きる夜、彼は必ず嫌な汗をかいている。



「大丈夫?」

「ん。」



きっと嫌な夢を見て起きたに違いない、と思うのは憶測でしかない。

明るくて剽軽な性格をしているのに、彼は大事なことはひとつも教えてくれない。

曲がりなりにも年下の女に弱音を吐くのが癪なのだろうか。

それとも、口に出来ない程嫌な夢を見たのだろうか。



「大丈夫だよ。」

「うん。」



何が大丈夫なのか知らないけれど、それ以外にかける言葉が見つからなくて

とりあえず大丈夫だと伝えると品田は少し生気の戻った声で答えた。

背中を触っていた手を肩へ伸ばして抱き締めると、発達した胸筋を総て包むことはできなかったけれど

冷たい肩に顔を寄せてぴったりとくっついて、体温を分けてあげた。

そんなことくらいしか、してあげられない。



「びしょびしょだよ。」

「大丈夫。」



呼吸の荒さは収まってきたけれど、皮膚の内側から聞こえる心拍数はまだ高い。

伸びた髪が額にはりついているのを片手で梳いて、品田は無理やり笑顔を見せた。

心配をかけさせまいとする意図がありありと透けて見えるような

あんまり好きじゃない笑顔だった。



「シャワー、借りて良い?」

「ん。」



了承したのに、なまえは品田を離さなかった。

せめてこの心音が落ち着くまでは、一人にしたくなかった。

どれだけ身体を重ねても、どれだけ一緒に酒を呑んでも、埋められない距離があって

それは決して悪いことではないのだけれど、こんな夜はあんまりにも歯痒い。



理解してあげられたならと思うけれど、複雑な過去を穿り返すのは躊躇われるし

忘れさせてあげたいけれど、それにはあんまりにも深く彼の心に根付いている。

出来るなら代わってあげたいのに、品田はきっと望まないだろう。

抱き締めていたシャツが本格的に冷たくなって、そろそろ着替えなければ本当に風邪をひいてしまう。

なまえが腕を緩めると、品田はゆっくりとベッドから降りて浴室へ向かった。

歩きながら身体に貼りついたシャツを脱ぐ品田の後姿を見つめながら

ならばいっそ、あなたになりたいと願ってしまう。










maybe not.








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