勢いよく閉じられたクローゼットの奥から、ガタッと何かが倒れる音がする。

すっかり明るいリビングには朝の情報番組が大して役に立たない情報を垂れ流している。

水の流れる音がしたかと思えば、慌ただしい足音。

髪を整えながら腕時計をはめているのは、鬼気迫る顔のなまえ。



「なんや、朝っぱらから騒々しいやっちゃなぁー…」



すっかり目が醒めてしまった真島は半裸のままベッドから起き上がる。

リビングの椅子の上には出勤準備を整えられた鞄がパックリ口を開けていた。



「なんで起こしてくれなかったの!遅刻しちゃう!」

「なんでワシが起こさなあかんねん。」



あーとかもーとか言いながら、なまえは手を止めることなく身支度を整えていく。

時間に制限のない極道と違って毎日決まった時間に出勤しなければならない社会人の朝は

正直カチコミより殺人的だ。



「真島さんが昨日遅くまでひっぱるからぁ!」

「勝手に付き合ってたんはなまえやんか。」



涙声になりながらなかなかネックレスを止められないでいるなまえの後ろに回り

小さな金具を引っかけてやる。

ほい、できたでと背中を叩いてやると、これまた慌ただしげにありがと、と返って来た。

髪を巻く時間もなかったのだろうか、ひとつに纏められた髪の襟足からは

セクシーに後れ毛が少し零れている。



「慌てて車道に飛び出したらあかんでー」

「わかってるー!!」



あたふたしながら玄関へ向かうなまえについていきながら廊下を歩く。

いつものパンプスよりもヒールの低い靴を選ぶあたり、走る気満々なのだろう。

玄関のドアをくぐりかけたなまえを見送ろうとすると

きゅっと踵を返してなまえは1歩踏み出した足をまた玄関へと戻した。



「忘れモンかい。」

「うん、キスし忘れた。」



少し背伸びをして、頬のあたりに小さくキスをして

いってきます!と言ったかと思えば走って玄関をくぐって行った。



「照れるわ、アホ」



今しがた出かけたばかりのなまえの香水の匂いが残る玄関を後にして

頭を掻きながらもう一眠りしようかと寝室へ向かう真島の顔は、少し赤い。






稀にある光


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