Ensoleillé lieu











普段会う時はいつも夜で、室内で会うことの方が圧倒的に多かったものだから

ついつい通常のサイズ感というものを失念していた。

青空の下で見る恋人は、思ったよりずっと大きい体躯をしていると再認識したけれど

その背中はいつもよりずっとずっと小さく見えた。



「晴れて、良かった。」



先に冴島を下して駐車場に車を入れてから、彼の後姿を追うなまえは

掛けるべき声が見つからなくて、どうでも良いことを発した。

砂利のないコンクリートの上で、冴島がふと振り返った。



「あぁ。」



彼の手には小さなビニール袋が握られていて、冴島が歩く度カサカサと音を立てた。

時折、濃いオレンジの布が見え隠れしている。

なまえは水を張ったバケツを持とうと手を差し出したけれど

冴島の短く優しい拒否の声に、手を引っ込めた。



「暖かいね、今日。」

「せやなぁ。」



ぽかぽかとお日様の日差しが暖かいこんな日は久々だ。

長かった冬がそろそろ終わろうとしている気配が、肩に振り積もってくる。

道端に落ちた小石が転がる音だけが時折耳に届く他は

時が流れて居ることを伝えるのは、雲の動きだけだった。



「靖子ちゃんも、機嫌が良いでしょう。」



いくつか並んだ墓石の隙間を通って、少し奥まったところに置かれた墓石が近づく。

もっと奥の墓の卒塔婆は、随分年季が入って居るものに見えた。



「それやとええな。」



冴島の横顔がふと笑ったようになって、なまえは視線を戻した。

月命日に必ず妹の墓参りをするという彼を、いつの間にか車で送るようになって

同席させて貰える様になるまでは長い時間を要した。

なんだかんだと、なまえを傷つけない言葉を選びながら拒否する冴島に

無理強いをすることでもないと気長に待ちながら

気づけばいつの間にか、墓の隙間に伸びた雑草を抜くのが上手くなった。



「そろそろ痛んでしまうね。」



生前彼女が好んだ物がなんだったのか、誰も知らなかった。

酒は好きだったのだろうか、喫煙者だっただろうか、愛した者は居ただろうか。

冴島は遠い昔、妹が食べて嬉しそうにしていたという懐かしい菓子を

必ず買って供えていた。

幼い頃見たきりのチョコレート菓子を、嬉しそうに頬張る彼女の姿を想像して

その横顔は冴島に似ていただろうかとなまえは少し想像してみた。



「夏場はなぁ…厳しいやろうな。」



最近では供え物を禁止している場所もあると聞く。

様々な理由で致し方ないこととはいえ、故人を想う束の間まで奪ってしまうことを

何とも寂しい気持ちになりながら、最後の雑草を抜いた。



「綺麗になった。」

「おおきに。」



湿ったオレンジ色の布は、来た時より随分色濃くなっていた。

春の陽気を含んだ冬の太陽が墓石を照らしていた。

何も言わず、ビニール袋の中から蝋燭と線香を取り出して冴島に渡す。

きっちりそれらを立て、ポケットから出したZIPPOで火を点ける冴島の背中を見つめる。

雑草を抜く以外、なまえが手を出すことはなかった。

冴島はそれ以上を求めなかったし、何か触れてはならない聖域のような気がして

精々ハンドルを握った手で、青い草を摘むことだけがなまえがしてやれることだと

お互い言わずとも解っていた。

静かに手を合わせる冴島の背で、なまえもそっと目を閉じて

ただただ彼女が安らいで眠りについて居る事だけを祈った。



「…行こか。」



随分長いこと手を合わせていた冴島が立ちあがって振り返る。

青空の下で見る彼の影は随分大きくて、力強く見える。

歩き出す冴島について進行方向を帰る前に、墓石に一礼して足を踏み出した。

目を向ければ、靖子の墓以外にもちらほらと線香の煙が昇っている。



「昼、食べて帰ろか。」

「うん。」

「何食いたい。」

「蕎麦。」



蕎麦かぁ、と呟きながら冴島がバケツを所定の位置に戻した。

蛇口から落ちる水滴が垂れて、日差しの中で弾けた。

もうすぐ、春が来る。












噫、忙しな


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