Olivia






好きじゃなくなってから、もう長いこと経っているのかも知れない。

一緒に居るというだけで恋人だと称して

恋人だから好きなのだと、自分の気持ちと向き合うことすら面倒だった。

ここらがきっと潮時なのよ。



デートの約束もない休日の昼間にいきなり彼を呼び出した。

綺麗に化粧をして、彼が好きだと言った白いワンピースを着て、短い別れ話をした。

ついさっきまで寝ていたような顔の彼は、少し引き留めたようだけど

もう私たちの恋愛は終わってしまったのだと、お互いが知っている。



「じゃあ、元気で。」



何か言いたそうな彼の顔を振り返らずに喫茶店を出た。

大方、何か良い事っぽいことを言って、自分から振ったみたいな体にしたいのだろう。

そういえば彼は兼ねてから、やたら見栄を気にする人だった。

くだらない。どっちでもいい、そんなの。



グレーのタイルで舗装された、晴れた街道を歩く。

彼の身長を気にして、5センチに留めておいたパンプスでルブタンに駆け込んだ。

レッドソールの高いピンヒールをすぐに購入。

カツカツと景気の良いヒールの音を心地よく感じながら、馴染みの美容院に向かう。



「やっちゃって。」



彼が好きだと言ったロングヘアーを梳かす、長年馴染みにしている美容師に一言告げた。

嬉しそうに笑う彼女が、はい、と元気良く返事をした。



新しい髪形に首筋がすうすうする。

お日様の光をいっぱいに含んだ風に吹かれながら、プラダへ入店する顔は

きっとさっきまでの自分と比べものにならない。

店員と簡単に相談しながら、シックなパンツとカッコいいシャツを買った。

試着室から出てルブタンをつっかけ、姿見を振り返ると

あの自信に満ち溢れた美人は誰かしら、と驚く。

とてもよくお似合いですと褒めてくれた店員の口上を珍しく額面通りに受け取って

きっと彼女にも素敵なことが起こると良いと、素直に祈った。



目的地まであと少し。

試着して即座に購入した服を着て、片手下げた紙袋の中には

さっきまで自分を包んでいた、元彼好みの可愛いワンピースとパンプスが入っている。

道端のゴミ箱に思いっきり投げ捨てて、ついでに可愛いアクセサリーも捨てた。

たしかこれは何年か前、彼に貰ったものだ。

今にも空へ飛んで行けそうな解放感と爽快感がなまえを包む。

自分の為の髪形、自分の為のファッション、自分の為のピンヒール。

この辺りでも一層高いビルのエントランスはお洒落だけれど

きっと今の自分はもっともっとお洒落。



エレベーターから降りて、もう見慣れた大きな代紋の扉をくぐる。

誰だかわからなかったようだけれど、こんにちはと笑顔で挨拶をして

屈強で柄の悪いひとたちの間を泳ぐように歩く。



「真島さん、私です。」

「おう。」



書斎の扉をノックして、聞き慣れた声の返事を聞くと

待ちきれないように重い扉を開けた。

暇そうにアイアンを振り回している真島が窓際に立っていた。



ぐだぐだな恋愛も、適当なセックスももう終わりにしよう。

自分の好きなように生きることはとても難しいけれど、それを放棄することも

またとても苦しいことだと学んだから。



「好きです、と言いに来ました。」



今時高校生でもしない、一方的な好意の告白をするのに

一体何万円使っただろう、一体どれくらいの時間くよくよ悩んだだろう。

諸々の面倒なことや先々の直面する問題を一切合切かなぐり捨てて

好きだと伝えた男は、変わらず柄の悪い態度と笑顔で

ええ女になったやん、と笑った。





を愛したの






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