なまえが独立したことは、表面上寿退社ということにしてあった。

でなければあんな優秀な人材を手放したことに言い訳が立たない。

東城会のアガリではここの所大半を占める白峯会のフロント企業の中枢で

マネーゲームが得意ななまえは、いうなれば懐刀だった。



「私が居なくなっちゃって、大丈夫ですか。」



ベッドの上で白いブラウスのボタンを閉じながら、なまえが背中越しに問う。

汗が引くまで衣服を身に着ける気にもなれず、かといってシャワーを浴びるのは億劫で

仰向けになりながら煙草を蒸かしていた峯が鼻で笑った。



「大丈夫じゃねぇよ。」

「弱気ですね、会長らしくない。」



身体の関係が始まったきっかけはたぶん、どちらからともなくといった所だろう。

そこに手頃な女がいたからだと峯が宣うならきっと

なまえも同じことを言うような、そんな関係だった。



「情報持って独立なんざ、ケジメもんだからな。」

「物騒ですね。」



他人事の様になまえが口元で笑う。

この女が笑うようになったもの、ほんの最近の話だ。

何度か身体を重ねたホテルの一室で、なまえを抱いた回数より少ない程に。



「堅気のオンナになるだけですよ。」

「極道の女だったつもりなのか。」



嫌味をひとつ投げかけたところで、ボタンを最後まで留め終えたなまえが立ち上がる。

ぴしっと皺を伸ばして、ジャケットを羽織った。



「いいえ。」



峯をこんな眼で見る女等、今時分なまえくらいのものではないだろうか。

嫌悪感と憐憫を隠しもしない冷たい目線は、この女の癖なのかと思っていたが

日常の業務伝達の最後に、そういえば結婚するので退社しますと短く付け加えた時に

自分がある意味特別視されていたことを知った。



なまえの結婚相手の身辺調査をさせたのは、別の組織に移行される可能性を考えてだった。

何のことはない、花屋のバイトに過ぎない男と一緒になって

男が独立して店を持ち、その経営になまえが携わっていくと胸糞悪い結果を受け取った暁に

ただの興味本位に過ぎなかったのだと自覚した。



「堅気の女ってのは、婚約者が居ても別の男と寝るもんなのか。」



なまえがバッグを手に取って、部屋を出ようとした頃にぽつりと声を掛ける。

振り返るなまえの肩から、長い髪がするりと背中へ零れ落ちた。



「世話になった礼、とでも言った所でしょう。」



冷たく言い放つなまえが動くたび、彼女の独特な香りがした。

ふと部屋に飾られていた薔薇に目をやるなまえが、口元を曲げて呟く。



「似合いませんね、白い薔薇なんて。」



花を愛でる趣味はないけれど、それなりのホテルの部屋にはそれなりの花が飾られている。

峯は勿論気にしたこともなかったし、なまえも気にする素振りを見せたことすらなかった。



「純潔、ですって。花言葉。」



男に仕込まれたのだろう、薄らぼんやりとした知識を投げ捨ててなまえが部屋を出た。

金の扱いと男の迎え方しか知らないと思っていたなまえが呟いた言葉が無償に苛ついて

峯は舌打ちをしながら煙草を消した。












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