気を付けて見ていると、西谷はよくここいらに出没した。

繁華街に住んでいるということもあってか、夜騒がしいのはすっかり慣れてしまったけれど

騒音の中心には必ずと言って良い程西谷が居た。

仕事帰りに見かけると、大体は優勢に立っているようで

そんな時はスルーして家へ向かい、平穏な日常を慎ましく送るのだけれど

たまに傷だらけだったり、泥酔状態でその辺で座り込んでいる所を確保すると

家に連れて帰るのは、なんだか自分の仕事のひとつのように思えた。



「また怪我してる。強いのに。」



風呂上がりの西谷の傷口を消毒していると、痛がりながらも彼は笑っていた。

なんでも真島という、やたら骨のある男が西へやって来たそうだ。

西谷は彼がどれ程強いのか、どれ程素敵なのかについて熱弁をふるっていた。

真島以外にはこんなにやられないのに、と悔しがってもいた。



「良いお友達が出来て、良かったね。」

「お友達、とはちゃうわなぁ。」



日本には東西にひとつずつ、大きな極道組織があるということ。

その西の方に属しているということ、組をひとつ持っているということ。

『じきさん』の『きじんかい』という組の組長をやっているそうなのだけれど

それがどういう字を書くのか、どういう立場なのかは良く分からない。

勝手に、営業部の部長みたいなものかしらと思っていた。



「会うたことないんか、真島くん。」

「ないよ、知らない人だよ。」



最近川沿いに出来た大きなキャバレーの雇われ支配人だという男と、

ごく一般的なOLのなまえがどのようにして知り合えというのだろう。

まぁ組長格の極道に中小企業のOLが手当てを施して居ることを鑑みると

無い話ではないのかもしれないけれど。



「まぁ跡目やらあの土地の件もあるし、近いウチまた始末せんとあかんけどな。」



東京の小さな土地を巡って、日本中の極道が今血眼になっているそうだ。

話を聞いてもよくわからなかったし、西谷自身もあんまり興味がないようだけど

とりあえず喧嘩の口実になることは好きな彼は、比較的楽しそうだった。



「真島君が居なくなったら寂しいね。」

「せやなぁ、まぁ、でもしゃあないわ。」



西谷の言う『始末』が何を指すのかはあんまり深く考えないことにした・

その時にはきっと真島という男も抵抗をするのだろう。

今までとは比べ物にならない程の怪我を追って、西谷はまたここへ戻ってくるのだろうか。

彼等の言う始末が、本当に文字の通りなのだとしたら

きっと素直に殺されて欲しいと、物騒な事を祈った。










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