GUARIGIONE







息をするように自然にグラスへ水を注ぐ、もう片方の指先は

慣れた手つきで器用にPTP包装から錠剤を掌へ二粒落とした。

白い粒を口の中へ放り投げて、水と嚥下するまでの合計時間は10秒にも満たない。



「そんなんしてたら、病気ンなるで。」



慢性的な頭痛を抱える日本人は、結構多いそうだ。

姿勢とか情報量の多さとか、思い当たる節は色々とあるけれど

とりあえず痛み止めさえあれば生きていける。



「病気だから飲んでるんでしょう。」

「まぁ、そらそうやけど。」



空になった薬のパッケージをゴミ箱へ投げ捨てながら、パソコンに向き直る。

片付けても片付けても終わらない、仕事に追われて生きている。

薬を買う為に仕事をしているのか、仕事をする為に薬を買っているのか

もうわからない。

先ほどから2時間置きに市販の頭痛薬を服用するなまえを咎めた真島が

納得したような納得してないような顔で、煙草を灰皿に押し付けた。



「ちょお、なまえ、来い。」

「え、忙しいんだけど。」

「ええから。」



渋々キーボードから指を離すと、真島がソファで手招きした。

普通に腰掛けるとこちらを向けと怒られた。

久々に正面から見た真島の顔は、なまえと同じく不健康に白い。

日陰者と引き籠り、なかなか似合いのカップルだ。



「まず眉間の皺を伸ばします。」

「ふぎゃっ」



革手袋の大きな手が、ぬっと伸びて額に触れる。

両手の親指で眉間を押し広げられると、変な声が出た。



「次に、こめかみを押します。」

「痛い、痛いよう。」



ぎゅぅう、と押されると如何にも血管が圧迫されている感触がしてギリギリと痛む。

2秒程感じた圧から解放されると、じんわりと血が回っていくのが意外と気持ち良い。



「そして、耳をひっぱります。」

「取れる、取れる。ちょっと。」



引っ張られた耳に連れて、首を延ばすと怒られた。

罰として何回か余計に引っ張られる腕をぺしぺし叩くと、暴れるなと笑った。



「最後にアイアンクローを、かけます。」

「なんでよ。」



なまえの頭蓋骨は真島の長い5本の指ですっぽりと覆われてしまう程小さい。

何度も揉まれる頭に少し涙目になりながら睨みつけると

上目遣いが可愛いと茶化す。



「ほい、しまいや。」



仕上げにぺちっと頭を叩いて、マッサージは終わったようだ。

少しボサついた髪を簡単に直して、勢い真島の胸に飛び込んだ。

ソファの上で仰向けになる彼の上で、お礼を言ったものか迷ったけれど

言葉にならない声で適当に呻いた。



「あんま薬に頼りな。何入ってるかわかれへんで。」

「怖いこと言わないでよ。」



薬剤の知識はないので、パッケージに書いてあることを鵜呑みにする。

中身が詳細に書かれているらしい横文字の羅列は、その9割がよくわからない。

きっと慢性的な頭痛に悩む大半のお仲間たちは同じようにその細かな文字を

読む時間すら惜しい程仕事に追われている。



「よう食ってよう寝て、よう運動せぇ。」



夜行性の癖にやたら筋肉質な腹筋で言われると、妙に納得してしまう。

へらへら笑う胴体が硬くて、男を想像させる。

ずりずりと這い上がって鼻先に軽くキスをすると

件の男らしい筋肉が、舌にまで影響していることを教えられた。









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