アイ








女なんてものは基本、どれも似たり寄ったりで

顔の造形なんて最先端医療と日進月歩の化粧品で如何とでも出来る。

多少仕事が出来たとしても付け焼刃で、いずれは結婚して子を産んで、家庭という小さな器の中を

我が物顔で、世界のすべてのように振る舞う生き物なのだ。



「では、失礼します。」



みょうじなまえは確かに綺麗な顔をしていた。

言葉の少ない唇が事務的に動いて、目を合わせないまま部屋を出ようとしている。

峯から回収した書類を確認すると、社交辞令のひとつもないまま

その黒いパンプスが床を蹴った。



「次は、どちらに行かれるんです。」



送って行きましょうかと心にもない提案を述べると、ふと振り向いたなまえが首を振る。

表の仕事ひとつ取っても、どれが芋蔓の葉になるかわからない世界で

会長が何気なく指定した業者を利用することには何の不満も抱かなかった。

ただそれがあの会長の女の会社であることを知っていたら、少しは違ったかも知れない。



「本部ですが。」



毎月末、とても表には出せないイザコザをなんとなくうやむやにした見返りに

本部から法外な報酬を受け取っている。

雌狗め、と心の中で蔑んだ。



「会長は今日、本部には居られないと思いますが。」



ピンヒールの音が止まり、ドアノブにかけたなまえの指がぴくりと動いた。

前髪の向こうで伏せられていた長い睫がゆっくりと動いて

気の強そうな、大きな眼球がこちらを捉えた。



「そうですか、確認してみます。」

「確認するまでもないことです。」



わざとゆったりとした動作で煙草に火を点けると、緩慢になまえに歩み寄った。

直系組長の書斎で、微塵も怯える表情を出さない顔が酷く生意気で腹立たしい。

真直ぐ峯を見据えるなまえに向かって紫煙を吐きだすと

ほんの少しだけ目を細めた。



「別の女の所でしょうか、先日呑んだ料亭の女将は美人だった。」

「そうなんですか、ご親切にどうも。」



嫉妬の色が少しも浮かばない、なまえは変わらず無表情だった。

この女はどのような声で会長に抱かれるのだろう。

どのような温度で喘ぎ、どのような音を出して舐めるのだろう。

ほのかに香る香水の匂いが鼻先まで近づいても、なまえは目を逸らさなかった。



「粋がるなよ、股の緩いハイエナが。」



汚い言葉で罵ったところで、なまえの顔は歪まなかった。

相変わらず美しい眉の形を保ったまま、その目には何の色も浮かばない。

あぁ泣いて怯えて、逃げ出してくれたらいっそ

こんなに嗜虐欲を剥き出しにせずに済むのに。



「どんな手で会長誑かしたのか知らねぇが、つけ上がるのも大概にしとけ。」



ほんの目と鼻の先に近づいた峯の唇から煙草を抜き取ると

なまえはそれを口に含んで大きく吸いこんだ。

チリチリと刻みの燃える音の後に、細長い紫煙が顔面を撫でた。



「ご親切に、どうも。」



強く言い切る声に震えは全く感じない。

この女は知って居るのだ、自分に危害を加えること等出来ないことを。

なまえは少し減った煙草を再度峯の唇に押し当てると

そっとその隙間に差し込んだ。

この女は知って居るのだ、手に入らない物ばかり欲しがる自分の性分を。



美しい曲線を描いた瞼がほんの少し細められて、嗤ったのだと知る。

なまえが静かに扉を閉めると、僅かな風に煙草の先で灰が揺れた。





きっともうって居るって






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