有頂天





クローゼットの中の服を、全部引っ張り出して合わせてみた。

なんならここ最近デパートというデパートのアパレルショップを梯子しているし

美容院だって抑えたのに、デートの服装が決まらないなんて

ここ数年、いや、高校を出て以来かもしれない。



「どっちが良いと思いますか。」



立華の前でタブレットをスライドさせて見せると、彼は一瞥して短く溜息をついた。



「どう違うんですか?」

「色々と違うんです。」



1枚目のスライドは大人っぽい感じのジャケットとスカート。

2枚目のスライドは可愛らしい感じのジャケットとスカート。

彼にはその機微が伝わらない。



「…アドバイスなら他に適任者が居るような気がします。」

「見捨てないでください、立華さん。」



執務デスクは綺麗に片付いていて、座り心地の良さそうな椅子に座った立華が

まだ湯気の立つコーヒーを、生身の左手で口に運んでいる。

アポイントの名目で来社したにも関わらず、仕事の話は最初の10分そこそこで終わらせて

なまえは立華と少し早めのティータイムを過ごしている。



「私に聞かずに、本人に直接聞けばいいじゃないですか。」



立華を困らせているなまえの質問、デート時に於ける女性の服装について。

1週間かけて絞った候補はどちらもディテールが異なっていて、容易に決められなかった。



「本人に聞いたら、意味ないじゃないですか。」



だから彼女が出来ないんですよ、と付け加えると

別に気にしていませんと冷たく返された。

これだから仕事人間は困る。



「お願いしますよ。立華さんだって、責任あるんだし。」



ね?と上目遣いで強請ると、眉をハの字に曲げて右手を伸ばした。

渡したタブレットを何度かスライドさせた後、顎に手を当ててじっくり考えてくれている。



尾田とのデートは今週の日曜に控えている。

元々ビジネスで付き合いのあった立華を介して知り合った男だが、派手な外見の割に

意外と真面目で、愛社精神も旺盛な男だった。

仕事に取り組む姿勢に好感が持てる、というような旨を以前立華に零したところ

なんだかんだでデートをする流れになってしまった。



「1枚目で良いんじゃないですか。」

「で、ってなんですか。」



なんだってこんな一生懸命になってしまうのだろう。

男性と食事をするのが初めてな訳でもあるまいし、まして仕事の付き合いの延長みたいなものだ。

それでもダサい格好で彼の隣に立つのは気が引ける。

気に入られたい、と思える男に出会ったのは久々だった。



「彼なら、着ていない方が好きだと思いますけど。」

「あぁ… は?」



穏やかな顔で言われて、すぐに切り返せなかったのが悔しい。

眉を寄せて、意味の分からないふりをしながら

にやけてしまいそうな口元をコーヒーカップで隠す。

上手くいくと良いですね、とタブレットを返して寄越す立華に

絶対に事の首尾がバレないようにしなくては、と身を引き締めた。




Just the way you look



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