ここの所よく眠れないのは、深夜にかかってくる無言電話の所為。

今頃こんな手合いが存命していたのだなと少し可笑しくなったけれど

面倒なので明日にでも新しい携帯を購入しよう。

ちょうど新しい機種が出たばかりだし、西谷に請求して一括で。

どうせ仕事以外で使わない。



「あんたさ、いい加減にしなさいよ。」



休前日の夜に件の男を呼び出して、馴染みのバーで一杯やった。

雰囲気のあるバーだし、こんな所は是非好い仲の男と一緒に来たかったけれど

相手がないので仕方ない。



「しゃあないやん。」



西谷は特に悪びれる風もなく、ロックでウィスキーをぐびりと飲んだ。

それでも流石に悪いと思ったのか、やたら分厚い財布から勘定もせず万札を抜くと

カウンターに置いて寄越した。



「遊ぶ分には構わないけど、巻き込まないでよ。」



例の無言電話は案の定西谷が泣かせた女の一人からだった。

一週間程続いて、じゃあそろそろ機種変更しようかと重い腰を上げた頃

西谷から心にもない謝罪の電話が入った。

いつもこうだ。

この男は適当に女を食い散らかして、面倒になったらほったらかして去って行く。

その度になまえの名前を出すのは、彼の常套手段だった。

去年の今頃等、純朴そうなまだ若い女が街中で突然なまえを待ち伏せたかと思うと

彼と離婚してください、私本気なんですと目に涙を浮かべて告げて来た。



「私、あんたと結婚した覚えも付き合った覚えもないんだけど。」

「あれー?せやったっけ?」



けたけた笑いながら茶化す西谷が憎らしい。

こんな男のどこが良くて、大阪中の女はほいほい捕まってしまうのだろう。

堂々と別れてくださいなんて言ってくる女はまだ可愛い方で

マンションのメールボックスに剃刀の刃がびっしり入っていた時は

流石に引越資金全額西谷に負担させた。

お陰で今は高級マンションのペントハウスに、悠々一人暮らしだ。

そして月に1度か2度、西谷は猫のように勝手に上がりこんで

仕事帰りのなまえを鼾と大の字で迎える。



「冷たいこと言いなや、俺となまえの仲やんか。」



酒とタバコと、キツい香水の匂いが染みついた西谷が

グラスビールに口を付けるなまえの横顔をのぞき込む。

視界の端でちらりと見遣って、溜息とも笑いともつかない吐息を吐くと

なまえはまた冷えたビールを喉に流し込んだ。



「とっとと切れて欲しい縁もあるものね。」



飲み干したグラスをカウンターに置くと、すぐにバーテンが次を聞きに来た。

仕草だけで同じものをもう一杯注文する。

迷惑料として出させてやろう、今日は呑んでやる。

どうせ明日は休みだし、警察に行く手間もなくなった。



「居れへんなったら寂しい癖に。」



ぎぃ、と音を立ててスチールが揺らいだ。

カウンターに肘をついた西谷がニヤニヤ笑うのを、同じく肘をついて見つめる。

何だってこんな男と腐れ縁になってしまったのだろう。



「清々する。」

「嘘つきは泥棒の始まりやァ言うで。」



ああ言えばこう言う、西谷とのお喋りはとても疲れる。

柔らかそうな泡を湛えた、気持ち良くなる金色のお水が運ばれて来たので

勢い良く一口喉を潤して煙草に火をつけた。



「今日は、よう呑むやん。」



ペースを合わせようとしてくれているのか、西谷が次の酒を注文しようとバーテンを呼んだ。

同じ物をロックで頼もうとした手を止めて、結局ボトルを頼んだ。

いつもこうだ。

この男と会う時は深酒をしてしまう。



「素面であんたに抱かれるのは癪だもの。」







勝手に擦って来たものは





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