pre-propose




午後10時に、やたらチカチカと場面転換の多いバラエティを観る。

風呂上がりの湿った身体に、綿の部屋着を着てソファで寝転がる。

こんな普通な幸せが特別なデートに感じる程には

大吾の住む世界はあまりにも殺伐としていてあまりにも寂しい。



「お菓子、取って。」

「ん。」



平日のデートなんて久々過ぎて何をしたらいいのか分からない。

いつもお互い家に居たって仕事をしているか、酒を呑んでいるか寝ているか。

夜更けにスナック菓子を食べながらテレビを観るなんて健全なデートは

もう何十年も昔にしたっきりだったかもしれない。



「あんま食うと太るぞ。」



ソファの隣で同じくお菓子を食べている癖に、大吾がからかいながら小言を言う。

うるさいと言う代わりに、次のお菓子を催促した。



「この辺、ほら。」

「あっ、ちょ、セクハラですよ。」



脇腹をつままれてなまえの身体がびくりと跳ねる。

少し気にしていただけに、割合本気で大吾の肩を殴ったけれど

なまえの腕力は彼の三角筋に何ら衝撃を齎さなかった。



「こんなんより、もっとスゴいことしてる癖に。」



意地悪に笑いながら脇腹をくすぐる大吾の髪は、まだ生乾きで

あのやたら厳ついオールバックに比べると、本当に歳相応に見えた。

くすぐられながらなまえが苦し紛れに何度も繰り出すパンチは

一撃もダメージを与えられていないようだ。



「やめて、お嫁に行けなくなっちゃう。」



ふざけた調子でそう言うと、一瞬大吾の手が止まった。

くすぐったくて暴れたせいで、なまえは大吾の腕の中ですっかり仰向けに捕らわれている。



「安心しろ、責任は取ってやる。」

「えー、困る。」



脇腹を攻撃する手が止まった隙に、するりと身体を抜いた。

困るって何だよ、と笑う顔がなんだか寂しそうで

先ほどたくさん殴った腕に寄りかかった。



「ごめん、やっぱ困らない。」

「なんだそれ。」



テレビではもうすっかりいい歳なおじさんたちが

何か面白いことをしてやろうと競って飛んだり跳ねたり面白いことを言っている。

大吾はスナック菓子を咀嚼しながら、何事もなかったようにテレビを観ていた。

時たま、頭を預けている肩が揺れた。



「仲良くできるかしら。」



彼を取り囲む、様々な人種と。

彼を取り囲む、途方もない困難と理解に容易くない権力や闘争と。

たった一撃のパンチすら何も生み出せないこんな細い腕で、彼を守っていけるかしら。

最後のスナック菓子を、無理やりなまえの口の中に放り込むと

安心しろ、と同じ台詞を吐いた。








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