首都高トレッタ





初台南で中央環状に入ると、すぐに地下へ潜った。

車体に叩きつける雨の音が静かになって、随分と走りやすく感じた。

昨日からずっと降り続ける雨から少し開放された気がしていたけれど、

湾岸線に入る頃にはシェルターから出なければならなくなって

なまえはまたワイパーを作動させた。



不定期に佐川から連絡が来ると、特段急ぎの予定がない限りは誘いに応じた。

食事だけをすることもあったし、食事はしないでホテルへ行くこともあった。

佐川がどんな仕事をしているか詳しくは知らないけれど

近江連合の直参の組長だということは知っていた。

別に怖いとも思わなかったけれど取り立てて愛していると思ったこともない。

ただ身体の相性が良かったから、一緒に居ただけ。



生麦ジャンクション辺りまで来ると、遠くの方で工場の明かりが灯っていて

雨の叩きつけるフロントガラスに滲んでは鮮明になり、また滲んでを繰り返していた。

走行車線を走る大型トラックの所為で車体が煽られ、ハンドルを強く握りしめた。



数時間前に会った佐川の腕には、化繊のロングドレスを着て

彼のジャケットを羽織った水商売の女が纏わりついていた。

持ち帰った仕事でずしりと重いバッグを持ったなまえを見て

満更でもなさそうな顔の佐川はたったひとこと

おう、と手を上げた。



本牧ふ頭の出口を出て、緩やかな傾斜を下る。

スピードを落とすに連れて段々と現実に引き戻される。

既に日付も変わろうとしている道路沿いは暗く、ただ雨だけが街灯に照らされて

銀色の筋を作っていた。



夜の店で遊ぶこと等、別に浮気だと思わない。

他の女が居ることも構わない。

ただ、せめて

言い訳くらいして欲しかった。

そんな飄々とした顔で、いつもと変わらない挨拶ではなくて

せめて少しだけ焦った顔をして欲しかった。



晴れた日中なら見晴らしの素晴らしい開けた場所だったはずだ。

もう真っ暗になってしまった海はただ黒いばかりで、耳に響く音は

雨の音だか波の音だか分かりやしない。

適当に車を停めてドアを開けると、煙草を咥えて火をつけた。

降り頻る雨の所為でそれはすぐにびしょびしょになって破れて散ってしまったけれど

フィルターを噛んだまま、声を出さずに泣いた。





だって寒いんだもん だっていんだもん




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