い冬だから



なまえが仕事を家に持ち帰ってくることは、もう珍しいことではなくなった。

少し前までは頑なに『プライベートに仕事を持ち込まない派なの』なんて言い張って

終電を逃しても職場で仕事を終えていたのに

最近ではまだバラエティがやっている時間に帰宅して、日付が変わるまでパソコンの前に座っている。



「どしたの、指。」



ノートパソコンの前で頬杖をついて、何か考え事をしているなまえの

左手の親指に絆創膏を見つけて指摘する。

あぁ、これ?と口を開くなまえは、少し疲れているように見える。

そりゃそうか。最近はずっと仕事漬けだ。



「別に、どうもしないよ。」

「どうもしなくないでしょ。血、滲んでる。」



換えてあげる、と手を取るとするりと冷たい手が抜けていった。



「自分で出来るから、大丈夫だよ。」



ありがとうと笑うなまえがラックから絆創膏を取り出した。

古い絆創膏を剥がすと、結構深い傷口がまだ生乾きで痛そうだった。



「何で切ったの、それ。」

「んー…、昨日包丁で抉っちゃって。」



恥ずかしそうになまえはそそくさと絆創膏を付け替えると、2、3度指を曲げ伸ばしして

またキーボードの上に手を置いた。

いつもは左手で打つスペースキーを、今日は右手で押しているところをみると

きっと痛いのだろう。

間抜けだよね、となまえが自嘲気味に笑った。



「そんなことないよ。」

「ありがと、もう大丈夫だから。」




仕事で辛いことがあっても、何か体調を崩しても、品田と些細なことで食い違っても

なまえはいつも怒ったりしない。

それどころか、原因は何なのか探って、解決策を見つけて、それに向かって努力する。

何事にもまるで仕事のように取り組んで、その間困ったように笑っている。

少し首をかしげて、斜め下を見る様に目を伏せて、口角をきゅっと上げて。

品田は今までなまえが泣いているところを見たことがない。



「なんかあったの?」



何もないよと言うだろうと思う間もなく、そう返って来た。

恋人の欲目を差し引いても、きっと美人の部類なのだと思う。

たまの休みに一緒にスーパーへ出かけても、道すがら何人か振り返るのは当たり前で

職場でのなまえのことは良く知らないけれど、ずっと前に聞いた肩書から

それなりに出世をしていることは伺える。

先程間抜けだと自虐していた料理だって美味しいし、女子力というものを競う大会があったら

結構良い所までいくんじゃないかと思う。

もし、なまえに欠点があるとしたら

それは甘えるのが極端に下手だということ。



「そろそろよいこは寝る時間ですよ。」

「んー…」



時計の針がくっついて、また離れようとしている。

品田がなまえの腰に手を回して引き寄せると、されるがままになまえの身体が傾いた。



「保存だけ、する。」

「ん。」



宣言通り、今までの頑張った功績をキチンと保存して電源を落とした。

絆創膏を貼りなおした指をそっと撫でてやると、とても冷たくて

その小さくて白い手を包んで温めた。







全てを脱いでめ合おう





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