君と僕の人という道が





警邏ばかりをしていると、何かと雑務が溜まってしまう。

数か月溜めこんだ書類を片っ端から処理していると、もう昼になった。

何人かの婦警が連れ立って昼食に行くのを、菓子パンとジュースを片手に見送って

谷村は黙々と作業を続けていた。



「谷村さんは、今週末の二次会どうします?」

「あ?」



弁当組だった婦警が電子レンジを使うついでに声をかける。

今週末は相変わらず雀荘で朝まで潰す予定だった。



「あっ…、何でもないです。すみません。」



思い出したように彼女は口をふさいで、あたふたと自分の席に戻って行った。

連れ立って昼食を摂ろうとする他の婦警達に何かを言っているが

こちらの席までは聞こえない。

谷村は溜息をついてまた目の前の書類に向き直った。


「お疲れ様ですー、部長いらっしゃいます?」



ほっと一息ついた正午のオフィスに、一際涼やかな声が聞こえてくる。

明るい声と共になまえがひょこっと顔を出すと、残っていた刑事たちが俄かに騒めいた。



「おめでと、なまえちゃん。今部長居なくてねぇ。」

「今週末楽しみにしてるよ。どんなドレスなの?」

「いやぁ遂に四課のアイドルも結婚かぁ。」



数か月前に人事異動で他の課へ異動になったなまえのことを、四課の面々は快く迎えた。

そのほとんどは、今週末に迫ったなまえへの結婚式に招待をされている。

谷村を除いて。


「えへへ、普通のドレスですよ。あ、でも食事はちょっと奮発しました!」



幸せの絶頂です、と言わんばかりの笑顔を満面に広げてなまえは囲まれている。

噂では、相手の男はどこかの実業家で容姿もそこそこ良いとのことだ。

とりあえず今谷村が関わっているような、極道者でなかったことに少し安心した。



「おい、谷村も行くんだよな?」



先ほどとは別の、男性刑事がデスクの谷村に声をかけた。

目立たないように積み立てられた書類の間に頭を潜めていたのに、お節介な同僚に名指しされて

呻き声にも似た、適当な声で返事をした。



「ちょ、谷村くんは、アレだから…」



弁当組の婦警の一人が、お節介な同僚に耳打ちをする。

彼も言われて気が付いたようで、焦りの色を顔に貼りつけた。

谷村となまえが別れたのはもう数年前のことだ。

付き合っていたことは大っぴらにはしていなかったが、別に隠していた訳でもない。

別れてからも別に業務に支障はなかったし、普通に接して普通に日々を過ごした。

なまえの送別会に合流出来なかったのは、確かに麻雀をしていたからではあるが

表向き警邏中に発生したトラブルの処理ということにしてあったのに。

部長もきっと招待されているのだろう、また挨拶に来ますと言ってなまえは帰って行った。



「すまんかった、さっき。」



お節介な同僚が向かいのデスクに戻ってくる傍ら、そう呟いた。

集中が途切れて、ちょうど煙草が吸いたくなったことを思い出した。



「じゃ、これ、代わりに出しといて。」



ちょっと面倒臭い、機嫌を損ねると受け取ってくれない窓口への提出書類を押し付けてデスクを立つ。

すっかり喫煙者に肩身の狭くなった署内の喫煙所は屋上だ。

残り少なくなった煙草の1本に火を点けながら、何となく携帯で週末の天気を確認する。

気持ちの良い晴れの日だという予想になんとなくホッとして、何故ホッとしたのか分からなくて

もやもやした気持ちを打ち消すように煙を吐いた。







もう二度とわらないことをお慶び申し上げます




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