THE HUNCH






















他人に関心がないような顔をして、実に観察眼の優れた男。

非常に優秀な情報収集能力を以て、その上で更に金の匂いを嗅ぎつける嗅覚の鋭さ。

渋澤との打ち合わせは他の組よりも随分気を遣い、

そして随分早く終わる。



「以上で全てですか?」

「あぁ、今回はそんなモンで良い。」



阿波野や久瀬なら小一時間は掛かる打ち合わせを、渋澤となら10分で終わらせられる。

事前に必要な情報を集めて置いてくれること、理解能力が高いこと

無理なものを無理だとすぐに飲んでくれることが非常にやり易かった。



「解りました。では、来週の火曜までに作成してお持ちします。」

「頼む。」



表に出せない書類は郵送という手が使えないのが面倒だ。

日陰の仕事をやるようになってからというもの、都会でも車は必需品になった。

尤も、維持費を出しても十分に御釣が来る程には

彼らからは莫大なお金を引き出すことができるのは有り難い。

テーブルの上でファイルに収めた書類をバッグに仕舞うなまえの横顔を見て

ふと渋澤が口を開いた。



「どうした、何か良い事あったのか。」



黒いバッグの口を抑えていた手をはたと止める。

渋澤からこんな漠然とした質問が来るなんて珍しい。

なまえが意外そうな顔を渋澤に向けると、彼は別に深く興味はないようで

他愛ない世間話の一環だと知った。



「どうしてそう思われるんです?」

「ただの勘だ。」



引き留めるでもない渋澤は煙草に火を点けながら投げやりに言い放った。

最近は、いやもう何年もずっと仕事漬けで取り立てて良いことなんて思い付かない。

それでも観察眼の鋭い渋澤にはそう見えたのだろう、なまえは口元で笑いながら

そうですねぇ、なんてのんびりとした声色で返した。



「最近素敵な男性と出会いまして。」

「ほぉ、せいぜい稼業がバレねぇようにな。」



別に素敵な出会いなんてない、寝る相手は大抵行きずりかそんなものだ。

渋澤が立て続けに2、3度煙草を口に運ぶ間に

ファイルはバッグの中にぴったりと納まった。



「あれ、妬いてます?」

「何でだ、そんな訳ねぇだろう。」



首を斜めに傾げ、茶化すような声で問うなまえに眉間の皺を深くして答える。

少し長くなった灰を、テーブルの上の大きな灰皿に指先で落とした。

きっと値の張る灰皿なのだろう、あれで人を殴ったら間違いなく死ぬだろうと思われた。

似た様な灰皿は他の組事務所にもあるけれど

渋澤のセンスだけは、悪くないと思っている。



「ただの勘です。」



鼻で笑って立ちあがると、背中に渋澤の舌打ちが聞こえた。























せめて隠してせめてして









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